私にとって,昭和60年代の記憶が「むかしのこと」になったのは10年くらい前だと思う。それまでの10年と少しは余韻のようなものだ。
そこから先,リアルタイムの記憶を積み重ねていたはずが,初めあたり,つまり21世紀に入ってからさえも,すでに「むかしのこと」になっているのにびっくりした。
くるりの「NIKKI」がリリースされたのは2005年の11月で,その年の夏,私はハリケーン・カトリーナの到来を知らずにニューヨークに出かけた。それはメトロポリタン美術館でフェルメールを見て,グッゲンハイム美術館に取り残されたハンス・アルプを確認し,グランド・セントラル・オイスターバーで食事をするという物見遊山の1週間だった。
そのとき抱えていったラップトップパソコンをこのところLinux用にして使っていると話すと,「かなりむかしのことですよね,それ」と言われ,確かに「むかしのこと」に違いないと思ったのだ。