ホテルのシェフとしてのキャリアは箱根富士屋ホテルからはじまったという。その後,ホテルニュージャパンに移った後,あの火災が起きた。
「それでここに移ってきたんです」
私たちは近くの道の駅まで送ってもらう車中,宿泊先の店主の話を聞いた。ゴルフ場のファサードをぐるりと半周し,海に向かう下り坂で彼は車を止めた。
「残念,今日は見えませんね。晴れていると大島から伊豆七島がきれいに並ぶんです」
眼鏡をかけていない家内はさておき,娘と私はそれでも,島の稜線だけはわかった。
「わかりますよ」
「さすが目がいいですね。80歳を過ぎるとさすがに見えませんね」
ゆっくりと坂道を下り切ったところで左折して本線を流していく。防風林の向こうは夏になると賑わうという。
道の駅で下してもらった私たちはそれから1時間半あまり,店を眺めながら過ごすしかなかった。