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しばらくすると紙袋を抱えて弟が戻ってきた。休みを少し早い時間にとれたので,一度アパートまで行こうという。
「荷物これだけ? 海外に行くときの量じゃないね」
「十分だよ,これで」

トラムに乗って10分くらいだったろうか。ときどき急な角度で曲がったりしながらアパートの近くの停留所に着いた。アパートとアパートの間が駐車場になっていて,ワインレッドのシトロエン2CVがそのなかに一台,やけに目立った。

天井がやけに高く広い部屋だった。ベランダには緑色の日よけが据え付けられている。

弟から渡された紙袋には食べ物が入っていた。「帰りは遅くなるから今日はこれを食べておいて」。まったく面倒見のよい弟は,しばらくすると店へ戻り,私はひとり部屋に残った。

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