アルファルファ

大学の入学式の日,どのような経緯で和之に声をかけたのか,もしくは声をかけられたのかは覚えていない。それは校門のところで,初日からブラバンに入るとを聞いた記憶はあるのだから,記憶なんて,どんな按配で留まっているのかわかりはしない。

彼は当時からいつも忙しくしていて,ときどき終電を逃したといっては,駅とは真反対側,国道を越えたところに私が借りていた一軒家の一部屋に泊まりにきた。

夜中までくだらない話をしていた翌日は土曜日で,講義を受けにではなく,サークルの練習に顔を出さねばならない和之は「昼飯,フォルクスで食っていこうよ。うまい頼み方があるんだ」という。うまい頼み方???

何のことはない。当時のフォルクスのランチは,サラダバーかドリンクバーのどちらかが選べた。和之はサークルメンバーとフォルクスにきたとき,一人がサラダバーを頼み,もう一人がドリンクバーを頼むのだという。皿とカップを交換して,二人ともサラダとドリンクにありつくという按配だ。うまいよりも何も,まあ,複数でくればおおむね考えつくに違いない。実際,そうするかどうかはさておき。

その日もそうやって,私がサラダバー,和之がドリンクバーを頼んだ。

当時,フォルクスのサラダバーはショートパスタとアルファルファがやけに目立っていて,フレンチドレッシングをかけたアルファルファの味は,何だか得した気分がした。何をどう得したのかいいづらいのだけれど,ショートパスタのどこか人工的な茹で上がり加減とドレッシングを付けても薄味に感じる淡白さと相俟って,下手したら,アルファルファとショートパスタだけで昼飯なら済ませてしまってもかまわないとさえ思ったこともあった。第一,私は当時,肉が苦手だったのだから,フォルクスに行って肉を注文するぐらいなら,その方が数倍マシだったのだ。

しかし,サラダバーとドンリクバーを交換しながらとった昼食を,やけに情けなく感じた。「これ,情けなくないか?」私は和之にその場でいったような気がする。彼はその日も忙しかったので,情けなさなどにかまっている暇はなく,コーヒーを飲み終えると,あわてて学校へ向かった。

私もそれ以上,おかわりすることなく,チェックを済ませ,とっとと店を出た。

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