風の王国

いったいどれくらい前に読んだのかさえ覚えていない五木寛之の『風の王国』(新潮文庫)を読み返している。なるほど,昭和50年代に一世を風靡した伝奇小説の体裁をとっていたのだった。すっかり忘れていた。

山田風太郎と大藪春彦が開拓し,半村良と平井和正がフォーマットをつくった伝奇小説が,いやになるくらい流行った当時,いくつかのシリーズを読んだ記憶があるけれど,あれらの小説がいったい何だったのか,今となってはその意図するところは思いあたらない。ただ,物語の終わりが死以外にありえないという意味では,こぞってポルノグラフィをSFでなぞらえたといってよいのかもしれない。

「死以外,物語りを閉じることができない」というポルノグラフィが抱える命題を,何らかの才能がある書き手はそれ以外の選択肢を模索した。にもかかわらず,才能の乏しい書き手が手を出しすぎたので,結局,ポルノグラフィにしかならなかったという感じがする。

 

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