自転車

はじめて手に入れた自転車は,店の壁にかかっていたので,大きさのあたりがつかないまま注文してしまい,小学3年生が乗るにしてはやけに大きなものだった。そのおかげで購入1年後,左右の見通しがきかない十字路で右から出てきた車とぶつかったとき,身代わりのようになって大破,私は大腿部を打ったくらいで大事に至らなかった(ということは以前,記した記憶がある)。

その後,スポーツ仕様の自転車をいとこから譲ってもらい,しばらく乗ったものの,これは光らないで,重さばかりかさむウインカーがすえつけられ,5段ギア仕様にもかかわらず,全体,非道く重いものだった。この世で,重い自転車ほどやっかいなものはない。それでも1年くらい乗ったけれど,さすがにこらえきれず,なんとか親を拝み倒して新しい自転車を買ってもらった。新品の自転車はフレームが軽く,無駄な飾りもついていない乗りやすいものだった。けれども手に入れてからしばらく後,今度は片道40分かかる高校に入学してしまったため,乗り心地よりも何も,市内を北西から南東へ毎日縦断するだけで精いっぱい。いまだに,よく3年間も通ったものだと思う。

自転車のウインカーというものは,結局,何の役にたつのか実感をもつことがないまま,今日まできてしまったのだけれど,30年以上前,デコトラよろしくウインカーで飾り「日本一周」などと幟をたてながら近場をぷらんぷらんしている自転車にときどき遭遇した。日本を一周もしていないことは,しばしば同じデコトラ仕様の自転車に遭遇したのでわかった。当時は,旗やらなんやらで飾り,とにかく重いだろうなあというくらいしか感慨を覚えなかった。

土曜日,八王子に出かけた。バスを降りた途端,バス停で眼鏡をかけたスポーティな老人が缶ジュースを飲んでいるのに出くわした。スポーティだけれどやけに埃と汗にまみれている。老人は飲み終えた缶をかかえたまま,たてかけていた自転車を起こすとまたがった。自転車は,まるで泥除けのかわりにバックミラーを20~30個付けたかのように飾られていた。遠ざかる鏡が映す景色にめまいがした。あのバックミラーはいったい,何だったのだろう。

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