北千住

昭和の終わり,東武伊勢崎線を頻繁に用いるようになった4年で変わったことは,北千住,浅草,上野,新御茶ノ水といった駅が,身近になったことだった。とはいっても,その後,変わらずそれらの駅を利用しているかというと,そんなことはない。社会人になった途端,仕事で北千住に出た際,帰りがけに西口をしばらく行ったところにあった古本屋へ行く程度になった。いつの間にかその古本屋は店をたたみ(お詫び:カンパネラ書房,絶賛営業中の模様,失礼しました),その後は北千住といえば柳原界隈からの帰りに東口の古本屋へ立ち寄ることくらいしか印象がない。名画座へとときどき通った浅草は数年に一度,酒を飲むくらいでしか出かけない。上野が目的地でなく通過地点になってからもかなり経つ。新御茶ノ水駅を使うメリットはもはや雲散してしまった。

それでも,昭和60年代に北千住,浅草,上野の町がもつ匂いにふれたことで,その後,年間数回,日本各地へと出張することになったとき,自分の尺度で値踏みする地方の鄙びた盛り場をどこか近しいものを感じる。たとえば20世紀終わり頃の柳ヶ瀬や防府なんて,探検したくなるくらいの寂れ方だった。どこか,北千住や浅草と重なる。千代田線の新御茶ノ水からこっち,あの空気にとても似ていた。

このところ月に一度くらい,北千住東口の喫茶店を打ち合わせに使っている。人待ちの間,据付のブックスタンドを眺めると,全体の1/2程度を「ムー」のバックナンバーが占めている。他にも,イリーガルな人物を主人公にしたマンガや,彼らを扱った雑誌が並んでいる。めまいを起こしそうだった。一冊だけあった「ドラえもん」に,はじめてシンパシーを感じた。いや,エンパシーではない。

 

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