七瀬三部作

少し前から「共感力の劣化」という言葉に,どこかでひっかかっていた。ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読み直した後,筒井康隆の七瀬三部作を読み返そうと思ったのは,そんなわけだ。

『家族八景』『七瀬ふたたび』は1970年代に,テレビドラマの影響もあり,私たちのまわりでは,どちらも「読んでいて当然」という類の本だった。『エディプスの恋人』が発表されるまでの数年間,あの独特の“感じ”を言葉にすることは難しい。

『エディプスの恋人』が発表されたときの期待と困惑を思い出した。友だちとあれこれ話し合ったものだった。読みながら,すっかり忘れていた“あの感じ”が蘇ってきたのは面白かった。

「共感力の劣化」からすると,『家族八景』が描かれた当時と比べて,大して変わっていないのではないかというのが正直な感想。ツイートが本心かどうかは別にして,呟きを目に耳にすることができる/耳に目にしてしまうことへの対応力が問われているということではないかと,そんなふうに感じた。

当時,「筒井康隆は文春文庫から読め!」 という高校時代の友人の忠告を思い出したものの,文春文庫というのは加齢臭が漂って,たぶん今に至っても,読んだ冊数としては他社文庫にくらべて圧倒的に少ない。確かに文春文庫に収載された筒井康隆の小説は凄いのだけど。続けて『馬の首風雲録』を枕元に置いて,矢作俊彦の『あ・じゃ・ぱん』はこれに近いところがあるなあ,と今さらながら思った。

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