他人事とは思えない


場所は悪くない。駅の近く,新宿へと続く通りのバス停の真ん前。左右3メートル×奥行7,8メートルと店のスペースは狭いものの,先に店を開いていた喫茶店は,うまくセッティングして,それなりに固定客もついていたはずだ。1,2年前にそこに新しい店は入った。定食だけではなく,一人飲み用につまみとセットにしたメニューもある。

開店してしばらく,家族と出かけたときのことだ。40歳代の店主一人で切り盛りしている。といっても客は50歳代の晩酌目当ての客だけ。メニューは揃えてあるものの,レトルトと冷凍食品に火を入れて出す雰囲気が漂う露骨なもの。注文の段取りが慣れないのは初々しいというよりも不安を醸し出す。

しばらく時間が経って,注文した品が出てきた。「ドレッシングはあちらにありますから,好きなもの使ってください」,対応が素っ気ないのは店主の一貫した対応だった。そう指されたほうに目をやると,市販の家庭用ドレッシングが5,6種類並んでいる。「好きな市販のドレッシングを使ってくれ」という意味なのだ。

晩酌目当ての客も戸惑っていた。アルコール2杯につまみ3品がついて1,000円程度とかなり安い。客は料理を食べて〆ようとしていたらしい。念のために確認したのだろう。「アルコールは2杯だね」。にもかかわらず,何を勘違いしたのか店主は,彼から「お代わりしてもいいだろうか?」と尋ねられたと思ったらしい。それも「尋ねられた」というより「プレッシャーをかけられた」かのように受け取った。だからこんなふうに返事したのだろう。「いいですよ」。口を尖らせるかのようにして店主はそう返事した。慌てたのは客のほうだ。すでにビール中ビン2本を飲んでいる。さらに飲めというのか,と。

気まずい空気が漂い,しかたなく客は酎ハイを頼んだ。この店は長くないな,と私は感じた。

にもかかわらず,蕎麦やうどんをメニューに加え(もちろん冷凍だろう),店は閉まらずに続いている。

先日のこと,そのとき以来はじめて,その店に入った。午後1時をまわった頃で,万が一,昼時に賑わっていたとしても空いているだろうと考えてのことだった。ところが店内は予想していない状況に変わっていたのだ。(続きます)

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