狭い店内に客は一人きりだ。にもかかわらず人いきれが充満している。初老の夫婦がわが家とばかりにそこらを闊歩しているからだ。よく見ると,昔,総武線快速に乗るとよく見かけたような荷物の山が入口近くに重ねてある。店主の親御さんらしい。オーダーをとるのがその老夫婦なものだから,なんだか他人の家で食事をとるかのような雰囲気だ。
加えて,老夫婦はおよそ客商売に慣れていないことは否が応にも伝わる。にもかかわらず,素人が客商売と聞いてイメージする所作を慣れないなかでとりつくろうものだから,おしつけがましいったらありゃしない。
もともとここの店主も似たような対応で,みずから墓穴を掘っていたのだから,これは遺伝なのだろうか。
ミックスフライ定食を頼み,待っている間も,母親が息子の部屋を片づけているかのような言葉が飛び交う。「汚れているところを先に拭いといて,あとから洗うんだよ」「お皿をこんなふうに並べたらだめだよ」「お父さん,そうじゃないって」。
何だか自分が親に言われいるように感じてきた。
ミックスフライは,牡蠣と白身魚,コロッケが盛られたもので,キャベツの切り方が素人っぽい学食の定食という感じ。全体,この店の料理はそんな具合なのだ。
牡蠣フライを口にいれて,生まれてはじめて,拙いと感じた。もしかしたらあたるかもと危惧した。それでも火はそれなりにとおっているし3個だからと食べた。
ところが翌朝のこと。危惧はあたった。嘔吐と下痢が続く。ノロウイルスに罹ったようだ。24時間,食事をとらずに,身のおきどころのないつらさとともにこの週末を過ごすはめになった。