あなたを選んでくれるもの


ミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』(新潮社)に現われるロンは,まるでデヴィッド・リンチの劇中登場人物のようで,それでもなお「彼を信じるこの世でただ一人の人になりたい」と記さずにいられない著者の感情が,なぜかとても身近に感じる。

とともに,登場するパソコンとの親和性に乏しい一人ひとりが,デヴィッド・リンチの映画を通して遭遇した米国のアリバイのようなリアリティを持って迫ってくる。リアリティもなにも実際の生活者だから当然なのだけど。

もしかしたらわたしは,自分の感覚や想像力のおよぶ範囲が,世界の中のもう一つの世界,つまりインターネットによって知らず知らず狭められていくのを恐れていたのかもしれない。ネットの外にある物事は自分から遠くなり,かわりにネットの中のものすべてが痛いくらいに存在感を放っていた。顔も名前も知らない人たちのブログは毎日読まずにいられないのに,すぐ近くにいる,でもネット上にいない人たちは,立体感を失って,ペラペラのマンガみたいな存在になりか けていた。
同書,p.165-167.

映画の主人公はソフィーとジェイソンのカップルだ。二人はひどく年寄りで病気の野良猫“パウパウ”を引き取ることにする。その猫は生まれたての赤 ん坊のようにつきっきりで世話をする必要があるのだが,赤ん坊と違って,死ぬまでその世話が続く。猫はあと半年で死ぬかもしれないが,もしかしたら五年生きるかもしれない。ソフィとジェイソンは猫を助けたい気持ちのいっぽうで,もうすぐ自分たちの自由が失われてしまうのだと気づいて愕然となる。
同書,p.8-9.

下のくだりを読んだときの感覚が何かに似ている気がした。あれこれ考えたところ,それは羽田圭介の「スクラップ・アンド・ビルド」で,あの小説の印象がまた変化した感じ。

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