人の顔

数年前,デイサービスの管理者さんから伺った話。竹内敏晴さんにお話したかったエピソードなのだけれど,それに加えて,現任教育の必要性だとか,もろもろ思いめぐらす。

ある朝のこと。

近づいてきたエンジンが止まった。彼が利用者の迎えから戻ったのだ。彼は半年前に入った40代の新人で,利用者を集めての体操はなんとかこなすものの,対人援助に関しては向いていないのでは,と管理者は思っていた。車いす移乗に出た管理者は,車のドアを開ける。「おはようございます」と挨拶するが,彼女の顔つきがいつもとは違う。入れ歯を入れ忘れたまま,確認せずに来てしまったのだ。

「入れ歯忘れたでしょ」と,彼に一言。
「そうですか?」彼が気づいていないことは明らかだった。
「入れ歯が入っているかどうか,ひと目顔を見たらわかるでしょ。ずっと通ってらっしゃるんだから」
「すみません」
入れ歯を取りに彼は利用者の家まで戻った。

その日の夕方。
彼は車いすを押し,彼女を車に乗せる準備をしていた。その様子を見た管理者は,朝のことがあったので,
「入れ歯だいじょうぶ?」と声をかけた。
「あっ!」
彼は車いすのストッパーをかけると,事業所の洗面台までかけていき,そこで「だいじょうです」。
彼女は歯磨きの後,よく,そこに入れ歯を置き忘れる。にしても,「だから,どうして顔見ないの!」。

 

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