みちくさ市

みちくさ市まで残り1週間と近づいたあたりから,前日必着のダンボール箱に何を入れるかを考えはじめた。文庫本は前回持ち帰ったもののほとんどを並べないことにした。小林信彦と内田百閒を持って行き過ぎ,それにもかかわらず手に取られることが少なかった前回のトラウマがどこかに残っている。単行本と雑誌は,もう一度並べてみようと思ったものが何冊かある。文庫本は当日抱えていくことにして,それでもダンボール箱はいっぱいになってしまった。

片岡義男のエッセイは何冊も売れて,それでも新たに買ったものを含め,手元にまだ残っている。今回はそこに小説を加えることにした。みちくさ市の日が片岡義男の誕生日だと知ったのは当日のツイッターでのこと。縁起がよいなあ,とそのときは思った。

当日の朝は晴れ。買ったばかりのジャケットに袖を通し,キャリーケースに詰め込んだ文庫本と雑誌を自転車の荷台に載せる。風が少し冷たい。

いつものとおり,メロンパン屋の隣にキャリーケースを降ろして,コーヒーを買いに行った帰りに受付を済ます。退屈男さんにダンボール箱を押してもらいながら二言三言,片岡義男つながりのことなど。

セッティングに何だか時間がかかってしまい,気がつくと11時間際だ。隣に嫌記箱を出していらっしゃる塩山さんに挨拶していると,そろそろ人が通り始める。

ぽつりぽつりと本が手元を離れていくのはいいものの,一向に家族がやってくる気配はない。夕方までひとりで店番というか場所取りのようなものだけれど,たち続けるのはどうなのだろう。思ったより風が強い。花粉だってかなり舞っているのだ。気温も上がらない。

「この間から見る空は高くて,いいねえ」

ふいに塩山さんがまるで詩人のように言うものだから,こちらまでそんな気分になってくる。

みちくさ市がはじまって2時間が過ぎても家族の姿は見えない。ショートメールでやりとりすると,まだ家を出たところで,あげくに西武線は止まっているという。絶望的な気分になり,iPhoneを見ずにポケットに押し込んだ。

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