中目黒


仕事で付き合いのあった放射線技師は家庭に入って後,ときどき野毛や中目黒で歌っていた。ようやく日常の連絡をメールでとるようになった頃のことだ。

中目黒にはそれまで用事がなかったので,彼女が歌うというカフェに上司とともに行ったのがはじめてだった。改札を出てすぐを左に折れる。数十メートル進み,交差する何本目かの通りを左に入ってすぐの店だ。バンドはアコースティックギターとベースにボーカルという編成。ボサノバとジャズが一緒になったような雰囲気で,リズムは打ち込みデータで鳴らしていた。シンディ・ローパーをカバーしたことは覚えている。店は女性向けのオーガニックというのかホリスティックといえばよいのか,全体,そんな感じだ。

ワンステージ聞いて,上司と一緒に店を出た。不動前のマンションに住む上司とは当然,すぐさま別れ,一人でぽつぽつと帰ってきた。自分のバンドは長い休止に入っていたので,何だか無性にスタジオに入りたくなった。

週末,五反田へ行った帰りに,家族と中目黒まで足を伸ばした。誤って山手線目黒駅で降りてしまったので,バスに乗る。途中,花見客の混雑で到着は遅れそうだと何度かアナウンスがあった。だから,駅前の停留所の一つ前で降りたほうが早いという運転手の案内に従った。

通りの向こう,ビル前の小さな広場ではフリーコンサートが行なわれているのだろう,その音があたりに響く。家内と娘を促しながらラッシュアワーの基幹駅のように行き交う人の間をすり抜け,横断歩道を渡った。桜の花があたりに爆ぜた。(つづきます)

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