ジャガー

そのころ,関東圏のライブハウスというライブハウス,音楽系の雑誌という雑誌では,ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば,まるでお天気のあいさつでもするように,ジャガーのうわさをしていた。

ジャガーというのは,毎日毎日彼らの空想を膨らませる,成金ロックミュージシャンだ。ジャガーはいくつもの店を経営し,自ら稼いだ金の力で自分の(曲の)プロモーションをし,ライブをするために自分でライブハウスをつくってしまったという。

ジャガーのほんとうの年はいくつで,どんな顔をしているかというと,それは誰ひとりみたことがない。にもかかわらず,ライブハウスがあるのは本八幡で,ライブハウスの上は裁縫店になっていることを皆,知っている。まるでゴレンジャーのカレーハウスみたいだ,あれは遠藤ミチロウじゃないか,噂なのかほんとうなのかわからない話が伝播していた。

総武線本八幡駅から少し東京寄りを江戸川に向かって南北に貫く道路がある。国道14号を右折し,線路を越えて江戸川のほうに少し下った右側に,蔦の絡まるあやしい洋館風建物はあった。そこにはジャガーカフェというライブハウスが併設されていて,自転車でその脇を通ると,「本日の出演ミュージシャン」が見えた。

大槻ケンヂの文章でジャガーのことを読んだ記憶があるし,ルート14でゼルダがライブをしたときのMCでもジャガーが話題になったように気がする。

曲自体はすっかり覚えていないけれど,「だまってジャガーについてこい!」は「ほたてのロックンロール」みたいな曲だった。

われわれにとって,ジャガーの何が衝撃的だったかというと,「成金」と「ロック」が続くそのことに尽きると思う。誰もが「千葉の成金ロッカー(ミュージシャン)」と枕詞をつけるのだ。

北口の山本書店にはときどき行くものの,南口まで出向いたのは四半世紀ぶりかもしれない。先日,仕事の関係で本八幡の南口へと出かけた。ジャガーカフェは閉めてしまったようだったけれど,あの蔦の絡まる洋館風建物は健在だった。

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