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するべきことがなくなった。所作もなく開けた共用キャビネットの奥に,古いラジオが放りこまれているのを見つけ,電池を入れなおしてみた。アンテナが折れてしまっていたので,ノイズの彼方でかすかに音が聞こえるくらいだった。しばらくダイアルを回しながらチューニングしたものの,結局,それ以上クリアに電波は入ってこなかった。スイッチを切った。

終電の時間が過ぎた。DTPマシンで台割をつくり続けるリーダーを横目に見ながら,私たちは書棚を片っ端からチェックしはじめた。資料になりそうな図は出てこなかった。原著がないことはわかっているのだから,参考になる図が出てきたとしても,それだって孫引きなのだ。

そのうちにリーダーもやることがなくなったようだ。少し時間を置いて,こう言い放つ。

「掃除しようか」

結局,始発の時間を遥か過ぎ,予想通り様子を見にきた社長に挨拶する時間まで,私たちは事務所をきれいに掃除した。

大部な単行本の出来が,リーダーの予定より大幅に遅れたことはいうまでもない。

それから2年経った。会社のサイトが立ち上がり,E-mailで仕事のやりとりがはじまった。珍しかったのでWebの画面を眺めながら,私は2年前の夜を思い出した。あのときWebが通っていたならば,もう少しは掃除の時間が短くて済んだのではないか,と。

ここからが本題。

当時のことでよく覚えているのは,素人のサイトは外して検索したことだ。それは今とはまったく違う感覚で,つまり雑誌や書籍の代替をWebに求めていたのだ。出所不明の文章は初手から相手にしなかった。検索エンジン・ライコスなんて“ゴミでも拾う”と揶揄されたものだけれど,結局,20年後,私たちがWebでチェックしているのはライコスで引っかかるような記事だ。当時の私には想像もできない薄汚れた未来にいる。

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