公開書簡フェア

文禄堂書店高円寺店は,高円寺駅北口の向かいにある。あゆみブックスのうちの一軒で,先日,リニューアルして店構えばかりか店名まで変えた。入り口左側にカウンターがあり,ドリンクのオーダーもできるようだ。iPhoneでPeatixを開き,受付を済ませる。1ドリンク付で,メニューにはアルコールもあった。ハートランドを瓶のままもらい,会場に入った。ハートランドを瓶で飲んだのは,10年くらい前六本木ヒルズに開いていたバァ以来かもしれない。

会場は,普段なら棚が並ぶスペースを片づけ誂えられていた。三方を文庫とマンガの棚が囲む。土曜日の13時から15時が書店にとってどのような意味をもつ時間帯かイメージできないけれど,トークイベントを含む今回のフェアの根本にあったのが,“場を使う”ことに対する敬意だったと理解するまでには,2時間が必要だった。

すでに参加者は集まり始めていた。中に入ると2階まで打ち抜きのスペースになっていて,右手に長机,中央に椅子が置かれていた。階段をあがった2階にも棚が据えられてあり,そこにも手すりに沿って椅子が並んでいるようだ。1階に入ってこられたものの2階に移った人が数名いた。

絲山秋子さんの小説は「イッツ・オンリー・トーク」から読んでいる。デビュー作との出会いはログのどこかを探せば出てくるはずだ。キング・クリムゾンの連想からページを捲ったのだけれど,そのときはたとえば清水博子さんの小説を矢作俊彦絡みで手にするのに似ていた。最近まで,その後の作品について記した記憶はほとんどない。小説は手にしながらも,次に印象的だった「下戸の超然」までのしばらくの間,私にとってはときどき読む若手作家の一人だった。

久しぶりに文芸誌で読んだ「下戸の超然」が面白かった。この小説に登場する「QとUの関係」については,その後,さまざまなところで使わせてもらいもした。北杜夫や石森章太郎を読んできた身にすると,「知的好奇心をくすぐるところが1つは盛り込まれている」作品が好きで,「下戸の超然」は久しぶりに,そのことを感じた小説だった。

文章の上手さはデビュー作から感じていたものの,それは必ずしも私が好きなタイプの文章ではなかった。単行本『妻の超然』を手に入れてから読み返すと,たとえば1行で半年を飛び越えるような文章にすっかり驚いてしまった。たぶん,私が少しは成長したからに違いない。年をとるごとに,少しずつものごとを受け入れるキャパシティが広がっていく,というか,小さなこだわりがどうでもよくなっていくのだ。その後しばらく読まなかった時間があるものの,今年はデビュー作から意図的に読み返している。ただ,『スモール・トーク』の次に『不愉快な本の続編』に飛んでしまい,このまま『忘れられたワルツ』に進むか『ニート』に戻るか考えている。

昨年末,絲山さんがツイッターで『イッツ・オンリー・トーク』をドアストッパー代わりにしている写真を見てから,数回,やりとりさせていただいた。ツイッター上で今回のフェアが生まれる様子は,だからリアルタイムで眺めていたように思う。(つづきます)

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