Limit

「金はないけど欲しがるには充分な能力はある。体力だって捨てたもんじゃない」
「体力?」
「ああ,欲望し続けるにも,所有し続けるにも体力がいる。相当な体力だ」
矢作俊彦『ドアを開いて彼女の中へ』(東京書籍)

40代になってから先のある日のことだ。もはや手元の本や雑誌,そのすべてを読み返すことはできないのだなと感じたことがある。映画でもCD,レコードでもいい。年をとるというのは,所有したものすべてを反芻するには時間が足りなくなっていくということだ。

古典にせよ,新しいものにせよ,とにかく読みたい,聴きたい,観たいという欲求が起きたならば,だから若いうちから数を体験しておくことを薦める。といっても,そんなことを伝えられるのは,せいぜい娘くらいだけれど。

作品がコンテンツ化され(どこがどう違うのかはさておき),ストリーミング配信の後,定額でいくらでもアクセス可能な環境が目の前に現れた。

それらにまったく食指が動かされないのは,あらかじめそのすべてを体験することなどできないものを目の前にぶら下げられている,というか1か月の対価を払うことで所有しているかのように感じさせるビジネスモデルが心底気に入らないからなのだ。

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