夏の砦


会社帰りに高田馬場の芳林堂書店に寄る。仕事に関係する本を探すが,適当なものが見つからない。小学館のペーパーバックシリーズから辻邦生の『夏の砦』をとってみる。付録に創作ノートがついていたので購入してしまった。それにしてもこのシリーズはコストパフォーマンスがよいな。
会計のときに,「みすず」が残っていないか尋ねたのだけれど,どうにも埒がかない。結局,すでに残っていないとのこと。このところ,芳林堂書店の店員さんとの会話が成立しない感じがして,要は書店員は会計のレジ打ちと本のカバーかけだけが仕事なのかというあたり。最近の芳林堂書店はそういう感じがするのだ。とても残念だけれど。地下の居酒屋で少し休んで家に帰った。
復刻版『静粛に,天才只今勉強中!』(倉多江美)が届いていたので,読み始めた。

辻邦生の『夏の砦』を新潮文庫で読んだのは1980年前後のことだった。しばらくして神保町で河出書房新社から出ていた『辻邦生作品』全六巻が安く並んでいるを見つけ,手に入れた。『辻邦生作品』の第二巻にたぶん『夏の砦』が収載されていて,その巻末の創作ノートがとても面白かった。

芳弘は当時,ネオアカどっぷりだったけれど,どうしたわけか『マイク・ハマーへ伝言』と『夏の砦』は気に入っていたようだ。彼からさまざま影響を受けた一方,私が与えた影響はもしかすると,その二つくらいかもしれない。自分が何か物語を書くようなことがあったら,この二作のようなものをまとめたいと,当時,私のアパートに手紙が届いた。なにせ電話を引いていなかったので,その4年間,私と連絡をとるには郵便,電報しか他に方法がなかったのだ。あとは直接,アパートを訪ねるかだけれど,当時,芳弘は私のアパートから100kmほど離れた場所にいた。

『夏の砦』は文庫版を何回か,作品集でも数回,読んだ記憶がある。そのうち,まったり理由がわからず理不尽なことに新潮文庫版が絶版になった。それでも文春文庫が掬い上げ,場違いな感じでしばらく書店の棚に並んでいた様子は覚えている。文春文庫版にも創作ノートが収められていたような気がする(どうだったかな?)。

「北の岬」から「廻廊にて」,そして『夏の砦』に至る一連の小説は,辻邦生の前期を彩る輝かしいものばかり。『安土往還記』を読みながら,やはり読み返したくなってきた。それにしても,本当にこんなことでよいのだろうか。自分が10代に熱中したものばかり手にしているような気がする。2017年だというのに。

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