困ったなア

少年ドラマシリーズの1つに「困ったなア」というのがあった。原作は佐藤愛子。サクラでテレビ番組のスタジオ観覧者として画面に映るアルバイトをする女の子が主人公だったはず。泣きバイを知ったのはツービートの漫才と松浦理英子の小説だったけれど,それより先にこのドラマで,大爆笑をするおばさんや女の子がアルバイトだと知った。

鼻の下に鉛筆を挟み,「困ったなア」と気の抜けた表情をする主人公の姿を思い出す。

日々,困りごとは現れる。他人の困りごとを目にする。他人のことはさておき,自分のことさえ傍観者であるかのようなフリをするようになったのは,昨日今日に始まったことではあるまい。結果,困りごとは解決の緒につくことなく蓋をされ,次の困りごとに意識が向く。

その程度の困りごとなら,それでいいではないか。

竹内敏晴さんが兵庫の大学で特別講義をされていた時代のこと。暑い夏の昼下がり,大学近くのバス停で降りると,キャンパスに続く道の途中におばあさんがいた。当時の竹内さんより歳だったというのだから,80歳前後だろうか。どうにも困ったようなみえる姿で道に立っている。

竹内さんはおばあさんに近づいたものの,戸惑った。講義の時間は迫っている。「どうかされたのですか」と声をかけたが,おばあさんは要領を得ない。「申し訳ない。私はこれからその先の学校で講義があり,相談に乗る時間がありません」そう言うと,連絡先を記した紙を渡した。「なにか相談したいことがあるようでしたら,ここに連絡ください」。

竹内さんは,自分のすべての時間を相談者のために使えるようにして,はじめて相談に乗ったという。生半可な時間しかないのに相談に乗るなどと無責任なことは言えない,と。「人の相談に乗るということは,そういうことでしょう」。

大阪で打ち合わせた帰り,名古屋までの新幹線の車中で伺った記憶がある。

テレビドラマ「Q10」で「助けてください」がキーワードになったあたりから,世の中から「困ったなア」と「助けてください」の居場所がどんどん狭まっていった気がする。「もの言わぬ傍観者」の立場をずるいと思わなくなったら終わりだろう。

ときどき,自分の所作を振り返り,あ,終わってたと思うことがある。

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