舵をとり 風上に向く者

『死ぬに手頃な日』の次は『舵をとり 風上に向く者』を読み始めた。

会社を早めにあがり,totoruでPUNK IPAとつまみを取りながら読んだのは2作程度。大塚まで歩き,ブックオフで村田沙耶香の文庫2冊と,つのだじろう描く『八つ墓村』『悪魔の手毬歌』のカップリングを買って帰った。一日暑くなるという天気予報ははずれ,歩くのには手頃な気候だった。

初出を眺めながら,記憶のなかで前後関係が入れ違っていることに気づいた。

「NAVI」で連作短編として連載がスタートしたのは1985年。私の記憶では一年くらい前倒しの感じがしていたのだ。単行本としてまとめられたのは1986年。前年に『真夜中にもう一歩』が刊行されていて,これも順序として感覚と異なっていた。

「NAVI」連載の各短編は,単行本化に際し,本文にはほとんど手が入れられていないものの,一部,タイトルが変えられた。ただし初出時,各編の登場人物は『マイク・ハマーヘ伝言』にそってキャラクタライズされ,その長編の登場人物の名をつけられていたのだけれど,すべて「りょう」と読む漢字をあてられている。前者の変更は気にならないものの,後者については,たとえば初出時,「英二」だった登場人物の名が「良」に変えられているのを読むと,どこか居心地が悪い(後に,「ウリシス911」に流用されたときには再び「英二」に戻されている)。

当時,NHK-FMのラジオドラマで「死ぬには手頃な日」のタイトルで放送されたとき,本書の短編をもとにしたものが多かったと記憶している。

『マイク・ハマーへ伝言』以後,似た感触の小説をほとんど発表していなかった当時,連載~単行本はかなり好評だったのではないだろうか。しばしば比較された村上春樹の小説と並べた短評が山崎浩一により「朝日ジャーナル」に掲載されたのもこの頃だ。

日に数編ずつ読み返しのがちょうどよい。短い時間を切り取って短編にまとめあげる手法は,当時から今もほとんど変わらない。「ウリシス911」のように,時間軸を繋げたり,並行に置いたりして組み込まれた長編を読んでみたい気がする。(加筆予定)

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