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年末に飲んだときはjava使いのSEだったはずの喬史が,その後,2か月も経ていないにもかかわらず,すでに私立探偵事務所を立ち上げている。年明けには南のほうで研修を兼ね調査の応援に出かけてきたという。そうした人脈をこ奴はいったい,いつの間につくるのだろう。

昌己は10年ぶりに会った徹の変わらなさを置きっ放しに,喬史が私立探偵を始めた話に衝撃を受けたまま,帰りの電車でそのことばかり話していた。

30年以上前,喬史が私の下宿にやってきたとき,本を3冊貸したことを思い出した。一冊はレイモンド・マンゴーの『就職しないで生きるには』(晶文社)で,残りは矢島栄三『探偵日記』(JICC出版局)と『人はなぜ探偵になるのか』(朝日文庫,これは露木まさひろ『興信所』だったかもしれない。追記:発行年からすると『興信所』のほうで,こちらを貸したのは最初に来たときではないことになる)。30年以上にわたり伏線を張っていたはずはない。元々,そういう奴だっただけのことだろう。初めて会ったときから何も変わっていない。

探偵になりたくないはずはない。しかし,依頼者より自分が一段高いところにいたいからじゃないか,そう感じた途端,初手から空想のその職業は私にとって何の感興も及ばすことのないものになった。同じようにして臨床心理士,カウンセラーも職業たり得ることがなくなった。

しかし喬史にとっては違うのだ。自分が人より一段上の立場から人を見てしまうような欲望を決して抱えない。でなければ,50歳を過ぎて私立探偵になど,いったい誰がなろうとするだろう。

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