真幻魔大戦

お彼岸。というのに朝から雪だ。この時期,唐突に雪が降ることは少なくない。何度か書いたとおり,芳弘がベータカムで映画というか動画を撮影するというので呼ばれた3月の今頃が同じような日だった。30年以上前のことだ。

昼から家内と船橋まで墓参りに行く。昼食は船橋シャポー南館1階のカフェに入る。花を携え,バスを待つ。狭くて,幹線と右折でつながった一車線。加えてバス通りという,混雑する要素で幾重にも絡まった通りは案の定,大渋滞で,バスは40分近く遅れている。

墓参りを済ませ,寒空の下,帰りのバスを10数分待つ。東武百貨店の北海道展を覗き,夕飯をとって帰る。

で,平井和正『真幻魔大戦』(文庫版)読み返しは結局,10巻まで続いている。他に読む本はあるというのにもかかわらず,だ。このあたりまでは文庫化されるたびに買って読んだ記憶がある。文庫版9巻までは全体,冗漫ではあるものの,エピソード中心に文章を半分くらい刈り取ってしまえば,今でも面白く読めるのではないか。その後,ノベルズはじめ華奢な現実のなかにおいても,この物語を下手にトレースしたものが雨後の筍よろしく現れたことを繰り返す必要はあるまい。

ただ,主人公が失踪(どこかに行ってしまうという意味で)し,その秘書が変わりに狂言回しを始めたところから,面白さが半減する。まだ,『新幻魔大戦』とのつながりが示されるあたりはいいのだけれど,『幻魔大戦』の登場人物が物語そのままに登場してからは鼻白んでしまう。

最初に超能力を宗教的世界観と絡めた小説を書いたのは誰だか知りもしない。ただ,適当に思いつくだけでも,半村良にしても石森章太郎(『イナズマン』あたり)にしても,善悪でシンプルに割り切ってしまうと,宗教的世界観を悪に位置づけて描いている。それに対し,ささやかな異議申し立てを義(多くは科学と勇気)がたてるという構図だろう。

森本恒雄の『魔女狩り』(岩波新書)が刊行されたのは1970年のことだという。三島由紀夫について平井和正がどう考えていたのか読んだ記憶はないが,1970年前後に起きたさまざまな要素が混交して『新幻魔大戦』ができあがったと考えるのが妥当なところだと思う。転生をガジェットにしているものの,まだ,宗教的世界観によってたつようなスタンスはあまりない。

一方,ホラー映画などでは,「エクソシスト」を筆頭に宗教的世界観に則った善悪(プログレでおなじみの神と悪魔の戦いというやつだ)の役割分担がなされてはいる。すでに科学と勇気に対して断罪状をたたきつけた平井和正は,悪に対して科学や勇気で立ち向かうような物語を思い描くことはできない。ここでもそうした流行を一歩先んじて取り入れ(といっていいのかどうか),『新幻魔大戦』では,ギリギリのところで「宗教的世界観=善」を武器とはせずに物語を展開していた。

ところが,ほどなくして宗教的世界観に「善」をぶちこんでしまった(「アダルトウルフガイ」シリーズ後半)。ここでもその後の流行に先んじているのだけれど。その直系が「幻魔大戦」シリーズなものだから,語られる言葉が鹿爪らしくてしかたない。まあ,「幻魔大戦」シリーズを『宗教的世界観=悪』で描くと永井豪の『手天童子』になってしまう。

宗教的世界観に「善」を投入すると,結果,選民思想が漂ってきてしかたなくなる。転生をガジェット化しているのだから,隘路に嵌るというのもしかたあるまい。あの辛気臭い『幻魔大戦』も1冊108円だったので箱入りで5巻(角川文庫15巻相当)まで買ってしまったのだけれど,この勢いで読むべきかどうか。

『死霊狩り』までの平井和正は,ユイスマンスにたとえると『彼方』までで,『人狼白書』から「幻魔大戦」シリーズを『出発』以降になぞらえると面白いかもしれない。にしても,善なるものに対して,この時期の平井和正ほど言葉を重ねた作家というのはいないのではないか。だから,中曽根よろしく「病は気から」を平然と小説のなかで解説してしまったりする。選民思想,優生思想に結びつきやすいのだ,この時期の平井和正の作品というものは。がんや精神疾患は「悪」によるものだと平然と書かれてしまった箇所を読んだときは,ほとほとあきれてしまった。

GLAに愛想をつかしたとは書いても,その教義というかスキームについて批判していなかった記憶がある。ハードカバー版『幻魔大戦』の書き下ろしあとがきでも高橋信次の言葉を引用していたはずだ。

ただ,『真幻魔大戦』を読み返して何が面白いかというと,平井和正の単語の使い方のうまさだ。登場する単語が古くないどころか,1980年前後にこんな単語を使っていたのか,と,その嗅覚と的確さには舌を巻く。

「幻魔大戦」シリーズは,『真マジンガーZERO』のようにまとめるのが一番だったと思う。あれが「幻魔大戦」のラストだと思い込んで読むのがよいのではないかと,このところ思うのだ。(諸々,加筆修正予定)

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