Round and round

本の見本をもって昼前に会社を出た。山手線内回りに乗る。A5判200ページ程度とはいえ,10冊になるとそれなりの重さだ。荷台に乗せ,渋谷まで岸政彦『はじめての沖縄』を読み返していた。

渋谷に着いて,あわててホームに出た。目の前の下りエスカレータに一歩,扉が閉まった途端,荷台の本のことを思い出した。上りエスカレータは工事中で,階段を駆け上がる。駅員に尋ねると電車の番号は72だという。改札を抜け,忘れ物窓口に行く。捜索可能なのは上野駅で,それまで30分程度かかる。見つかったら携帯に連絡があるという。渋谷で待っているより,上野に行ったほうがよいと判断してしまう。それがすべての間違いだ。

外回りで代々木まで行き,総武線に乗り換え,秋葉原で山手線内回りに乗る。上野に着いたのは12時過ぎ。改札で忘れ物窓口を聞き,事務所に向かう。時間は約束の30分を過ぎたものの,携帯に連絡はない。担当者に届けがないか確認してもらったものの,見当たらない。

とりあえず山手線のホームに行く。ところがこの時間帯,ホーム上に駅員は1人いるかいないか。というか,駅員が見当たらない。御徒町方面の階段を下り,小さな改札で尋ねたものの,1,2番線,または3,4番線に誰かいるはずだという。山手線の長いホームに1人。だんだんと面倒くさくなってきた。1,2番線に上がると,ようやく1人見つけた。

72は今,どのあたりを走っているか教えてほしいと,まるで山野浩一の小説のように尋ねると,駅員室で確認できるという返事だ。この人はこの間,遭遇したJRの駅員のなかで人への対応が一番,まっとうな方で,番号の確認の仕方,一本前の電車が何時に着くかまでていねいに教えてくれた。

駅員室に入ると,72を捜索してくれた若い駅員がいた。再度,届出がないか確認してくれたものの,結果は同じ。あと10分くらいでまた72が来るというので,それまで待つことにした。

数分後。とりあえず一本前の車内を捜索してみる。次の車両に移り目視してホームに戻る。さらに数分後,72がやってきた。記憶にあった車両番号に入るが荷台には荷物がない。そのまま乗り込んで次の車両に移動した。ここにもない。元の車両に戻り,反対側の車両に移ると,10冊の本がエコバッグに入ったまま乗っていた。

山手線一周半しても,取られる危険性のない新刊に,少しだけ不安を覚えた。そのまま渋谷に行き,待ち合わせ時間に1時間半遅れで見本を手渡すことができた。

敗因は,上野での対応に尽きる。ピックアップされるだろうという判断だったので行ったのはしかたないにしても,それから後は反省ばかりだ。見つからなかったと聞いた時点で外回りに乗って72と出会う駅をチェックすればよかった。渋谷と上野というのは楕円の正反対に位置するので,そこで待っているのは何をするにしても一番,時間がかかるのだ。

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