ビッグ・スヌーズ

会社帰りに「新潮」9月号を購入。地下鉄のなかで「ビッグ・スヌーズ」第8回を読み始めた。読み終えた残りを読むために高田馬場で休憩。そのまま図書館まで歩き,朝日新聞の縮刷版を探す。昭和の縮刷版は中央図書館に移ったようで,新築されたここには数年前からの分しか保管されていなかった。

端末からWeb版で検索をかけてみたが,探していた“ジョン・レノンが牛を数頭購入した”との記事は見当たらない。渋谷陽一がラジオで話していたのかもしれない,と思いながら,残った時間で矢作俊彦の記事を検索した。1983年,「オフィシャルスパイハンドブック」に抗議,例の記事が見つかった。『半島回収』では,スパイのネタどころか,憲法まで持ち出して無茶苦茶やったにもかかわらず,波風は立たなかった。売り上げの違いなのだろうけれど,さびしいな。

「ビッグ・スヌーズ」の時代設定は『Wrong Goodbye/ロング・グッドバイ』から数年後,2006年のようだ。連載第2回にポケベルのエピソードが出たとき,そう思ったにもかかわらず,読み進めるうちにすっかり失念してしまった。この間に『フィルムノワール/黒色影片』が起こったことになるのだろうか。「チャイナマンズ・チャンス」「ルッキン・フォー・ビューティー」の二度にわたって忘れられた『大いなる眠り』(三つ数えろ)冒頭のオマージュの続きが,「ビッグ・スヌーズ」では順調に語られる。それにしても二度にわたって,その後を描かずに他の物語に移行してしまったのはどうした理由なのだろう。

元々,チャンドラーの『大いなる眠り』はボリュームの割にプロットがかなり錯綜している。昔,ミステリマガジンで,その錯綜具合をマンガのコマに置き換え皮肉った記事――もちろんオリジナル刊行時の米国で出版された雑誌からの転載――を見た記憶がある。長編第1作目でもあり,いろいろ詰め込んだ結果かもしれない。それでも『高い窓』『湖中の女』,つまり80年代のなかば,清水俊二訳で妙に老成したマーロウを読まされた小説に比べると遥かに面白い。『かわいい女』とともに何度か読み返した。『大いなる眠り』もいいけれど矢作版『かわいい女』も読みたいな。

「耕平」と言われたら「富樫」しか思い浮かばない読者にとって(漢字違いの「志垣」だっているけれど。「サタディ・トワイライト・スペシャル」に登場するのはどちらだっただろう),「ビッグ・スヌーズ」で元町商店街とその裏通りを彷徨う二村というロケーションはあまりにすばらしい。紅葉坂から早くヒロインを連れだしてきてほしい。

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