King Crimson

クラシックのコンサートでも,ここまで客の年齢は高くないだろう。50代半ばの自分が若く見えさえする。しかも圧倒的な男性の割合の高さ。今野雄二じゃあるまいし,キング・クリムゾン,それは男のための音楽,だっただろうか,「暗黒の世界」のライナーノーツの見出しを今さらなぞらなくてよいものを。

18時過ぎにオーチャードホールに入り,グッズ売り場でパンフレットとTシャツを購入。そのまま階段をのぼり,ビールでサンドウィッチを流し込む。一息ついた後,席を確認した。1階,ステージ向かって右後方,通路に面した席。少し遠いもののロバート・フリップの演奏がよく見える位置だ。座ってパンフレットを眺めていると,開演が近づくにつれ次々に客が入ってくる。ほとんどが眼鏡をはずし,座席の背にひたいをつくくらい近づけて確認している。前回の来日からそのまま3歳年取った客ばかりなのだろうか。もちろん,他人のことを言えた義理ではない。

とりあえずセットリストのコピー。

第1部
01. The Hell Hounds Of Krim
02. Discipline
03. The ConstruKction Of Light
04. Peace – An End
05. Neurotica
06. The Letters
07. Breathless
08. Epitaph
09. Larks’ Tongues in Aspic Part IV
10. Islands
11. Easy Money
12. Indiscpline

第2部
13. Devil Dogs Of Tessellation Row
14. Lizard Bolero
15. The Court Of The Crimson King
16. Radical Action
17. Radical Action III
18. Meltdown
19. Radical Action II
20. Larks’ Tongues In Aspic Part Ⅴ (Level Five)
21. Starless
—encore—
22. 21st Century Schizoid Man

で,2015年来日のときにみたステージと同じ曲が意外と多かった。この体制で初めて聴いたのはDiscipline期の3曲とIslandsくらい。

まず,“Discipline”のアレンジがかなり変わっていて面白かった。フィリップ・グラスが“フォトグラファー”でミニマルに高揚感を持ち込んだときみたいなタッチで,キーボードとサックスパートが増えているし,ドラムは3台だしで,ここぞとばかりに盛り上げていく。

“TCOL”は前回の来日でも聴いた。アレンジ自体は大幅に変更されていないものの,フリップのギターがかなり前面に出ている。これは他の曲でも同じで,とにかく今回はフリップの演奏に熱が入っていて面白かった。

“Neurotica”は期待していたのだけれど,出だしの展開が少しべたっとし気味で,たとえば1984年のライブのような鬼気迫る感じが維持できていないのが残念だった。“Breathless”がセットリストに入ってくるとは思わず,しめた! という感じ。“Discipline”から“TCOL”“Neutorica”そして“Breathless”だから,あの時期のイディオムでやり残したことをやり切るのが今回の来日でもテーマだった気がする。というのも,2015年の来日でもミレニアム期の落とし前を通して,結局,80年代クリムゾンのイディオムの可能性を探っていたように思ったからだ。

このあとも“LTIA”4,5と演奏されたので,その感を強くした。

前回は期待以上ではなかった「宮殿」からの演奏が,今回はそれはすばらしかった。キーボードパートをリーフリン,ステイシー,そしてフリップの3人で弾くのだから音の厚みが違う。“Epitaph”でキーボードに手を添えるフリップの姿が恰好よくて,その後も“Islands”“宮殿”でもキーボードを弾いていた。前回も感じたとおり,“宮殿”は1969年くらいのライブのように無理やりギターソロをねじり込んでほしかった。三番のあたりで,ギターのフレットに手を添えたので,これはと思ったら,その後,鍵盤に戻ってしまった。肩すかし。ただ,一度フェイドアウトして,再び始まって後のオーラスで不協和音になるところで,ロバート・フリップが肘を使って鍵盤と格闘する姿を観ることができた。フリップが肘で鍵盤を。それも楽しそうなのだ。72歳にもなって無邪気なものだな。演奏は無邪気じゃなければと言ったのは当のフリップだったものの。「音楽は」だったかもしれない。

“Indiscipline”は1981年に出たときから今一つ好きになれず,今回のセットでも,入れなくていいのではと感じた,代わりに“Fracture”を演奏ってくれたなら完璧なセットだった。

“Starless”はマステロット,“21st”はステイシーが途中までメインでドラムを叩いた。ただ,担当曲を逆にしたほうがよかった気がした。ステイシーのスネアのチューニングがとてもよかった,まあ,言ってしまうとブラフォード気味で,ドラミングにも癖がないから“Starless”はステイシーに任せればよかったんじゃないかな。マステロットはチューニングからセッティングまでブラフォードをイメージしているのは明らかで,ただ,ドラムスタイルがまったく違う。だから納まりが悪いのだ。

ハリソンに至っては,スネアのチューニングはもとより,タムの入れ方から何から独特なので誰かのマネする気など初手からないのだろう。それが奏功している面はもちろん,一方で,バリエーションがあるようで,実はあまりないため,一本調子に感じられることが何度かあった。たとえば1拍目からスネアを入れても,同時にタムを叩くので,せっかく変化がつくはずのところを殺してしまい,全体がベタっとしてしまう。リズムを主導しているのがハリソンであることは明らかなので,これは惜しい。少し前,サイトからフリーダウンロードできた“Sleepless”ライブバージョンでのハリソンのリズム解釈はすごく面白かったので,もったいない感じがするのだ。

トニー・レヴィンのベースは安定していたけれど,たとえば“Starless”の最後を8分4連で盛り上げていくようなことはしなかった。もっとベタに盛り上げてほしかったなあ。

メル・コリンズは少し疲れ気味だったものの,手練手管で調子を合わせる。“Islands”収録の曲や“Starless”では存在感があった。

“宮殿”収録曲のダイナミクスと,フリップの衰えなさを観ることができただけでも,よかった。(加筆修正予定)

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