One more red nightmare

子どもの頃,熱に魘されるたびに見る夢があった。景色のないジェットコースターよろしく重心が急降下する感覚だけの夢で,あまりにしばしば見るものだから,10代を折り返すことになると,その感覚をかなり意図的に再現できるようになった。

印象的な夢の痕跡はあっても,内容を覚えていることはあまりない。枕元にノートを置いて,起きざまに見た夢を記録する手があるけれど,覚えてもいないものをとどめておく必要はあるまい。

少し前からよく見る夢がある。私が住むのは,地上から5階くらいまでは商業施設が入った超高層マンションだ。商業施設はスカイツリーの下のようなつくりになっているものの,かなり古びている。家に行くには5階からまず,途中までエレベーターに乗る必要がある。このエレベーターには囲いがなく,かつ途中の乗り換え場所は地上100メートルくらいにある。

何よりもこのエレベーターに乗る感覚が気持ち悪い。ただただ「乗らなければならないエレベーター」なのだ。何とか乗り切って,そこからわが家が入るフロアまではさらに100メートル以上,上がらなければならない。不安定な場所にあつらえられたエレベーターの揺れは非道い。フロアに着くと,つくりはしっかりしているにもかかわらず,なぜか安定感が悪い。

いつくらい前からかは覚えていないが,このシチュエーションで夢を見るようになった。

まわりに同じような建物がいくつかあるようで,この前は,地上から,そのうち一つの部屋が,まるでサイコロが転がるかのように落下してくるのを眺める夢だった。私が住む建物は幸い被害がない。建っている状況はほとんど変わらないのにどうしたことだろうと訝しむ。

精神分析に手頃な夢かもしれない。けれども,夢は,意味を削ぎ落した,ただ不条理な物語でしかないと思うのだ。たとえ何度も見る悪夢だとしても,それはただの夢だ。

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