ビッグ・スヌーズ

「常夏の豚」をひっくり返したついでに出てきた「チャイナマンズ・チャンス」の分厚い束を捲る。ついでのついでに当時の本サイトをクリックしたところ,こんな記述がみつかった。それなりに読み続けていたから,「チャイナマンズ・チャンス」(後の「ルッキン・フォー・ビューティー」においても)で『大いなる眠り』を試みようと思ったことは第1回から伝わってきたのだろう。まあ,本式に始まるまで10年かかるとは,連載当時,それでも思いはしなかった。

「新潮」の連載は順調そのものだ。今回,勝手口から続く裏道の描写を読みながら,一瞬,ここは「眠れる森のスパイ」で,月の夜,藤田嗣治の戦争画を見つけるところに繋がるかもしれないと危惧した。それを危惧というのかどうかわからないが。というよりも,小説をそんなふうに読むものではあるまい。

もちろん,前言撤回癖がある著者ではないので,あらたな文章で続き,結局,戻った家の二階でピカソの作品に出くわす。

二村永爾は萬金油(タイガーバーム)を刷り込みながら,その匂いくらいで顔を顰められる世の中を嘆くというか気にする。実際,戸外で数人が匂いのもとを探すかのようなしぐさをする描写がある。このシリーズにはほぼ毎回,萬金油が登場する。

シンガポールで萬金油を買い,しばらく使っていたことがあって,ときどき,あの匂いを思い出す。シンガポールではなく。

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