10年

仕事帰りに高田馬場のブックオフに寄る。天気予報の雨は降り出しが遅れている。

19時半過ぎに会社を出る。下版の予定を立てたものの,一人数ページ分の原稿が未入手。ノンブルが通らない。にもかかわらず索引のマーキングを済ませた。

ブックオフで4冊ほど。『未来のイブ』(渡辺一夫訳,岩波文庫)下巻しかなかったけれど購入。下巻だけ読んでみようか。李香蘭の自伝は『あ・じゃ・ぱん』の補助線として。

「ヨコスカ調書」を4回分だけ書き残し,ニューヨークへ旅立った矢作俊彦は,からだを壊して数か月後,日本に戻ってきた。その後,『気分はもう戦争』と「マンハッタン・オプ」に着手する。いまさらいってもしかたないことではあるけれど,1979年に「ヨコスカ調書」が書き進められ,その流れでまとまったとしたら,後の『ロング・グッドバイ』にもった違和感はなかったのだろうと思った。

『ロング・グッドバイ』でしっくりこないのはビリー・ルゥの年齢だ。それはつまり,1979年に起きた事件の登場人物を1999年にもってきたために起きた齟齬で,読み返すと歳をとりすぎているのだ。

『神様のピンチヒッター』をビデオ映画でつくったときのインタビューだったと思う。小説が発表された1973年の登場人物たちの行動原理が,ビデオ映画製作時には時代と乖離してしまい,その違和感をどうしようかと悩んだと語っていた。で,どうしたのか覚えていないものの,似たようなことは『真夜中へもう一歩』のときにも起こり,ここでは発表から10年も経っていないにもかかわらず。登場人物たちの造形にかなり手を入れてまとめられた。

『ロング・グッドバイ』は「ヨコスカ調書」が未完となって後,四半世紀後に刊行された。始まった物語に,25年を盛ってまとめる作業はなかなか容易なことじゃない。ベトナム戦争を背景に,ミレニアム前の物語を進めるのはしんどいことだろう。他は何とか帳尻を合わせても,魅力的なビリー・ルゥに加齢臭を漂わせるのは無理があった。

『真夜中へもう一歩』と『ロング・グッドバイ』の間にまとめられた『あ・じゃ・ぱん』を読み返しながら,連載終了後,難産だったとはいえ,『ロング・グッドバイ』までの時間はかけずにまとめられたこの小説が,やはりあと10年前の設定でまとめられていたらどうだったろうと思った。

ここでは平岡の年齢があと10年若ければ違和感を覚えることはなかったのだろうなあ,と思いながら,1980年くらいに天皇崩御があり,壁が崩壊,プラザ合意からバブルの終焉までを視野に入れて描かれたならば,違う面白さがあったのではないか,と。

で,『あ・じゃ・ぱん』の第四部を読み進めている。

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