The days of wine and roses

矢作俊彦の 『マンハッタン・オプ3/はやらない殺意』(光文社文庫)を読み返していた。このシリーズは矢作の小説がはじめて文庫化されたもので,というか文庫オリジナルで編纂されたものだ。それまで埴谷雄高よろしく自作の文庫化は認めないポリシーかと思うくらい,矢作俊彦の作品の文庫化は遅かった。

全三巻の最後をかざるのが“The days of wine and roses”だ。たぶん活字としてまとまった本シリーズのなかで一番長い話だ。1回11ページ程度で,おおむね前編/後編に分けて放送されたと思われるの作品のなかで(雑誌「ルパン」掲載の“In high”は除く),4回分のボリュームがある。

本作は消えた女性探しを発端に,「わたし」がマンハッタンを彷徨う,本シリーズのルーティンに則っている。にもかかわらず今回,一度読んだだけではストーリーがよくわからかった。読み終えて,ああ,矢作俊彦の小説を読み終えたときの感じが蘇ってきた。つまり,よくわからないけれど,部分部分は強烈に記憶に残る。結局,読み終えたすぐに読み返すことになる。その心地よさだ。

「マンハッタン・オプ」の一編というものの,場所を横浜に変えれば,ほとんど連作「さまよう薔薇のように」シリーズに入っていてもおかしくない。三度目にページを捲りなおしたときには,そのように置き換えた。

その後,「ぴあ」の広告用エッセイとして発表され,『複雑な彼女と単純な場所』に収載されたフェニアス・ニューボーンとのエピソードがさらっと取り入れられており,いくつか発見もあった。

10年くらい前,ソフトバンク文庫から全4巻にまとめなおされた『マンハッタン・オプ』でも本作はラストに置かれている。

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