ビッグ・スヌーズ

先月は休載だった「新潮」連載の矢作俊彦「ビッグ・スヌーズ」を読んだ。細飼とのやりとりで,背景が明らかになるあたりは「眠れる森のスパイ」後半でのクリス・アッカーマンとの会話を思い出した。

発煙筒を投げ込むシーンは『引擎/ENGINE』に似たような箇所があった気がするけれど気にならないどころか,ある種の不親切な場面展開が,矢作俊彦の小説を読むたのしみは,こういうところにあるのだなあと思いながらページを捲り直した。

40数年,小説家としてのキャリアをもつ作家が,締まった構成と変わらず唯一無二の文体をもって新作を発表するのだから,数多の小説家にとって脅威以外のなにものでもないだろうけれど,そうした声を耳にすることは,残念なことにあまりない。「ビッグ・スヌーズ」は,この作家の連載小説としては,「眠れる森のスパイ」以来の見事な,というかおもしろさを持続したまま完結しそうな作品だというにもかかわらず。

「週刊新潮」の長期不定期連載エッセイは,スタートから2年で13回。2か月に1回掲載されるくらいだけれど,他の記事がまあ非道いので,そのくらいのペースに異を唱える気にもならない。せいぜい毎週木曜日に饐えた臭いを放つ目次を捲る徒労くらい,厭うこともあるまいし。

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