モラル

STORESに犬養道子の文庫本を数冊登録した。中公文庫で出たものはほとんど読み,ただ,いつものようにすべてがわが家の書棚から見つかったわけではない。登録したものの,読み終えて抜けている本が数冊ある。見つかったら登録しようと思う。

犬養道子は不思議な物書きだ。当初の数冊は,いわゆる出羽の守もので,海外(おもに欧米)ではこうだけれど,日本はまだこんな感じ,という比較で文化を語っていくスタイルの物書きとして登場した。

北杜夫や小田実につながる海外渡航ものの書き手としての一面も,だからもっている。初期のものは佐藤亜紀のエッセイとどこか共通する匂いもある。当時のエッセイは数冊読むならば面白く,ただ60年代終わりあたりに書かれたもの以降,少し鼻につくようになる。雑誌「暮らしの設計」を表現の場にして,生活の変革をめざしたあたりの頃からだ。

ところが,70年代後半に出羽の守から一変,というか日本が云々述べるスタイルでなくなる。紛争地域に足を運び,主観を軸足にして状況をルポしていく。べき論とは一線を画した主観はキリスト教から導かれたものだろう,などと穿った目をもって読んでも,それ以降書かれたものはハッとする箇所にしばしば遭遇う。ジャーナリストが書いた文章としてみると,主観が削がれずに生なまま示される。1980年代に入ると犬養道子独特の表現が定まる。

矢作俊彦がいうところの,ロスマクの登場人物よろしく「いい米兵」ということになるのかもしれないが,どうしたわけは犬養道子の文章にはタテの階層を感じない。それがどこに由来するのかはさておき。書かれたものを通して,そのモラルを知る機会は貴重だと思う。

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