ルッキン・フォー・ビューティー

天気は相変わらず。出がけに『大いなる眠り』と間違えて,読み終えた浅羽通明の新書を持ってきてしまったため,iPhoneにダウンロードした「デジタル野性時代」を引っ張り出し,矢作俊彦の「ルッキン・フォー・ビューティー」を第1回から読み始めた。19時くらいまで仕事をして帰る。上着に袖を通しても汗ばまないくらいの天気。夕飯をとり,Windows10のアップデートを済ませた。

「ルッキン・フォー・ビューティー」は,チャンドラーの『さらば愛しき女よ』をもとに,ということはマンガ「オフィシャルスパイハンドブック」の問題? になった2作目「4号俸4等給 危険手当無シ」を安部譲二さんに登場してもらって仕立てなおそうという企てで始まったのかもしれない。出だしはそんな雰囲気ではじまる。

ただ,第1回で,少し前に連載が始まり,まったく別の物語に軌道修正した「チャイナマンズ・チャンス」の断片を使ったため,第2回以降,矢作俊彦の小説にしてはめずらしく時制がストレートに進まなくなる。「So Long」といい「チャイナマンズ・チャンス」といい,連載後,単行本にまとまらなかった作品はだいたい似た感じになるとはいえ。矢作俊彦の連載小説では,記憶をたどるだけではなく,物語のなかで記憶の再現がはじまると,既出作品から引っ張り出してきた文章の二次利用になることが少なくない。

第1回にストレートに続くのは第4回で(だから回想のかたちをとる。ここの回想はオリジナルだ,前言撤回になるものの),その間に,『引擎 engine』のマンション最上階からの転落死(連載「引擎 engine」はもとより,「チャイナマンズ・チャンス」にも登場する場面),同じく『引擎 engine』に収まったバーの場面が続き,そこから「チャイナマンズ・チャンス」の車に乗せられ盗聴を聞かされるシーン(これはもともと「眠れる森のスパイ」で麻布あたりを舞台に描かれた場面だ)が入り,突然,「チャイナマンズ・チャンス」の第1回が始まるという混乱した構成だ。

「チャイナマンズ・チャンス」のはじまりはチャンドラーの『大いなる眠り』だから,「ルッキン・フォー・ビューティー」は『さらば愛しき女よ』で始まり,『大いなる眠り』を接ぎ木して進むことになる。『あ・じゃ・ぱん』は連載時,『さらば愛しき女よ』を意図されるようになったのはかなり後半なってからで,だから単行本化の際に,構成がかなり変わった。

で,大鹿マロイに相応するのは大鋸(おが/おおが)で,このキャラクターの造形描写はほとんど安部譲二さんそのもの。大手団体を飛び出した後,東北で独立プロレス団体を立ち上げ,一方でご当地キャラクターの仕事を片手間に農園を営むというマンガチックな背景をもって登場する。

「ビッグ・スヌーズ」があまりにも見事に完結を迎えようとするなか,連載「チャイナマンズ・チャンス」「ルッキン・フォー・ビューティー」がなぜ,混迷してしまったかを検証するのは面白い。「チャイナマンズ・チャンス」はさておき,「ルッキン・フォー・ビューティー」は12回で完結しているので,読み返すことにする。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Top