ミステリマガジン

「ミステリマガジン」の最新号に矢作俊彦がエッセイを寄せているというので購入。ジョン・ル・カレのスマイリー3部作については,1980年代に権田萬治が矢作俊彦にインタビューした記事は面白く,記憶に残っている。ジョージ・スマイリーとフィリップ・マーローが異母兄弟であってもおかしくないというような内容だった。

今回のエッセイは久々に矢作俊彦の新しいエッセイが載るというので購入しただけで,同じく三好徹が寄稿していたけれど,さすがに三好徹の歳となると締まったところのない内容だった。少し前,通俗時代の江戸川乱歩に似た三好徹のスパイ小説は読むのが楽しかったのだけれど。

新書と読書会のテーマも合わせて買った。吉田司を読み直しているし,なんだかあれこれ手を出してしまう。

神保町

「散歩の達人」10月号「神田・神保町特集」の大衆中華のページを読みながら,思い出すのは,すずらん通りの中古楽器屋の隣にあった店だ。このサイトに何度か記したことがある,ラーメンにはキュウリが入ってい て,食べるたびに火傷した塩味の中華丼。いつも店主と喧嘩し辞めると連呼したフロアのおばさんは,いつの頃からか客に食べ終えた器を持ってこさせるようになった。それが嫌で足が遠のいたことも以前,記したと思う。

「今日でおばさん,最後だけど」

その場にいったい何度居合わせたことだろう。にもかかわらず,しばらくして暖簾をくぐると,結局,見慣れたおばさんがいる。初めてすずらん通りに足を踏み入れた1975年から10数年はいたんじゃないだろうか,あのおばさん。

結局,おばさんが辞めるより先に店が畳まれた。というと語弊があるけれど,つまりは地上げを食らったような店のしまいかただった。だからそれは,ちょうど町の様子が変わり始めた頃のことだ。1階と地下だけで,十分時間が潰せるくらい書泉グランデが面白かった当時で,暇になると神保町に足を運んだのは昭和60年代の終わりまでだった。

平成の始めに,神保町界隈が非道いことになり,その後,ますます非道いことになった。東京堂書店が一人,気を吐いていた頃だ。それも続くことがなく,非道い町の様子が風景に溶け込んできたのは,ようやくここ10年くらいだと思う。

最近,ときどき神保町に出かけるものの,書泉グランデの棚の非道さばかりか,三省堂,東京堂書店にも入ろうとは思えなくなって久しい。古本屋を何軒かのぞき,白山通りのあたりを冷やかして帰ってしまうのがせいいっぱい。どうにも按配がちがうのだ。

みちくさ市

9月20日の雑司ヶ谷・みちくさ市に出店。路上はすごいなあというのが感想。八切止夫からサインをもらったことがあるという方や,金井南龍の本を読んだことがあって『神々の黙示録』は読んだことがなかったので買います,とおっしゃる方。あたりまえに,そのような方が歩いている。いや,すごい。楽しい。

松下竜一ミニフェアは,『豆腐屋の四季』ばかりか辻潤,上野英信の本も購入いただく。八切止夫ミニフェアも,ピクリとも動かないのではとの予想に反した結果で,全体,これまで参加したなかで一番,売上額が高かった。

昨年はじめてみちくさ市に参加したときのお隣は,斯界の巨星・レインボーブックスさん。一箱市の感覚を,手取り足取り教えていただいた。

その後は,メロンパン屋の横で一人,店を張ってきたものの,今回は申込みを開始15分前に帰宅途中の山手線で思い出し,事務所に戻っていては 間に合わない。慣れないスマホで申込みを何とか済ませた。できるだけ文字数を減らそうと,だから場所を指定しなかった。

今回はメロンパン屋の隣で,シックスセンスさんとご一緒。
ご挨拶をし,準備されているのをふと見ると,下敷きマットがワールドハピネスの福助とおそ松君。福助といえば,あのスペシャルゲスト・台風11号だったフェスじゃないか。そこから話が音楽のほうに。平成生まれとお若いのに矢野顕子,YMOファンって,類が共を呼んだということか? 琴線にふれるところがあるというのだから,なんだか凄い。ワールドハピネスの参加者の平均年齢は40~50歳代と踏んでいたのけれど,16時頃,店じまいをしているときに通った若い子の「あっ,ワールドハピネスのシート」という呟きを聴いた記憶も。みちくさ市とワールドハピネスの親和性を感じた回でもあった。

午後に入ってから,「小さく音楽流していいですか」ときちんと挨拶いただき,流れてきたのははっぴいえんどにYMO。「浮気なぼくら」が戸外に似合うとは思ってもみなかった。

で,たぶんこの曲もかけていたはず。今回の楽しかった記憶をぐるりとたばねてくれた一曲。次回は原田郁子バージョンで,ぜひ。

9月14日

7月以来,2度目の国会前。

池袋で有楽町線に乗り換え,桜田門で降りる。何やら警官か駅員に誘導されたと思しき高齢者が進行方向側の出口に折り返す姿。改札を出た先,1番,2番出口は封鎖されていて,すでにヒートアップしているデモ参加者(それは当然なのだけど)は警官が押し戻して,他の出口へと向かわせようとする。その諍いを横目に,私は止められることもなく封鎖の横から2番出口を上がった。

国会前の交差点が封鎖されている。横断歩道の信号が青になっても渡ることができない。国会前へ向かおうとする人がたまる。コールの音頭とりの声が出て,レスポンスが続く。男の声,女の声,若い声,歳を経た声。鳴るリズム,苛立ち,怒り,そして前を目指す意思。どれも7月より遥かに強い。

壁代わりの警察バスがやってきて,2つの横断歩道の真ん中で止まる。渡る人数を少なくしようというのだろう。「段差に気をつけて」「ゆっくり」,同じ“こちら側”感が広がる。

横断歩道を渡りきると,溢流する人がまだらになる。すでに中央の路上は開放されていた。そのまま国会方向へと上がっていった。こちら側,あちら側,コールが響く。しばらく歩くと,その先がなくなった。

ロジャー・ウォーターズや村上春樹のおかげなのか,塀との区別はつくものの( 塀はハンプティダンプティが落っこちる前にいたところ,というように),「あれが壁だ」と指差した記憶はない。

はじめて目の前に,こちらとあちらを隔てる壁を見た。

小田原

小田原で取材を終え夕方,東口に出た。

昼食をとり損ねたので栄華軒でビールとギョウザ,半ラーメン。そのまま高野書店をめざす。昔ながらの日よけが並ぶ商店街に交差する通りの奥にあった。『エリック・ホッファー 魂の錬金術』を購入。大塚英志の単行本も買おうかと思ったものの荷物が増えそうなのでやめにする。少し戻って伊勢治書店で『時代の正体』と『ジゴロとジゴレット』。佇まいが定有堂書店のにぎやかだった頃とどこか似ている。客の感じだとか,そういうところで。隣の茶舗江嶋で栗茶巾,帰り道の洒落たパン屋でいくつか買って帰宅。

『時代の正体』を帰りの小田急線の車中ページを捲っていると、ふとSEALDsとキュウソネコカミのダイレクトさが重なった。何の理由も伴ってはいないものの。

寝る前に『ジゴロとジゴレット』。新潮文庫のスピンの色が変わったのかと思ったら、文庫用ブックカバーにスピンがついていた。素敵なカバーだ。知っていたら,新潮文庫以外の文庫を買ったのだけれど。

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