フィルムノワール

『THE WRONG GOODBYE』が刊行された10年前は,ブログを検索し,ある程度まとまった分量のテキストを通して,他人の感想を読んだ記憶がある。私が当時,借りていたレンタルサーバで立ち上げたブログのようなものでも,あれこれ記した。その痕跡はLogを遡れば現れる。その10年前近く,『あ・じゃ・ぱん』刊行の頃は,素人のサイトを外して,プロの書き手の文章を辿り,評価を読んだはずだ。

ネット環境に船出した当時の,どうしてプロの文章を探して辿ろうとしたのか,もはやかすかな記憶しか残っていないその感覚をときどき思い出す。素人の膨大なテキストを目にする機会など,それまでなかったのだから,おのずと慣習に従っていただけだろうけれど,プロの書き手の文章を探した徒労は忘れられない。たぶん,この世のどこかに正しいテキストが存在しているはずだとでも勘違いしていたのだろう。ただ,その後20年近くを経て,正解かのような装いのテキストに容易くたどり着くことができる環境のなかで,比較するはずのみずからの感覚がプアになっていはしまいかと,誰かに囁かれたように感じることがある。

『フィルムノワール/黒色影片』を読み終え辿ったのはTwitterだ。確かにキルゴア・トラウトだ。ナイス・ナイス・ベリ・ナイス。

もう一度読み始めて,日本でのドタバタのなかで,玉田真理亜の兄の名前が登場していたことに気づく。FBに書き込みなどするのではなかった。まだ,香港で誰も死んでいないあたりなので,銃の音について不明。

フィルムノワール

昔,何かの雑誌のクロスレヴューで高見順の娘が,『マイク・ハマーへ伝言』を読み,三人称で一人称のように語る文章が印象的だと書いているのを読んだ記憶がある。当時すでに単行本刊行後,20年以上は経っていたのではないだろうか。

『フィルムノワール/黒色影片』を読み終えた。前半は連載の印象をトレースしながらページを捲ったが,全体の半分あたりからがらりと印象が変わった。連載のときは唐突な感じがした調布での宍戸錠だったが,香港で再登場したあたり。そこから物語は一気にピークに向かう。終盤は『真夜中へもう一歩』と『THE WRONG GOODBYE』と重なる感じがした。

展開は,ページを捲る時間が惜しいくらいのスピードなので,すぐに再読するのだからと,こちらも飛ばし気味で読み終えた。

再読しようとして,結局,『神様のピンチヒッター』をしばらくぶりに読み返すことになった。それも「抱きしめたい」を飛ばして,「夕焼けのスーパーマン」から「王様の気分」へと進む。

そこで,高見順の娘の言葉を思い出した。『リンゴォ・キッド休日』以前の矢作俊彦の小説の文体は,三人称なのだけれど,たとえば『マイク・ハマーへ伝言』のような文体はまだ,選択されていない。1972年から年を経るごとに一人称っぽい三人称が様になり,物語のなかで一人称っぽい三人称が占める割合が増える。そう理解して,読み返したところ,初期の中篇小説がこれまでに増して面白かった。

『フィルムノワール』の依頼人,Twitterだったか,エッセイだったかで,名取裕子の膝を同じように形容していた記憶があるのだけれど,宍戸錠を含めて,肉体を持たせる必要はないと思う。

Rセクション

「Rセクション?」
「そうさ。もう秘密でも何でもない。マッカーサァ司令部の分科会の誰か,――きっと発言力だけは大したもんだったんだろう。――その誰かが,日本人から軍国主義的要素を取り去るには米食の習慣を取り上げるのが一番だって言い出したのさ。そこで研究がはじまった。日本人を日本人たらしめているエレメントの,果してどれほどの割合いが米食によるのか彼らから米を完全にとりあげるには果してどうしたらいいのか」
「いつまであったんだ。そんなセクション」
「一九六〇年の七月だ。面白いのはそれだけじゃない。そのセクションがあったってことだけじゃないんだ。日本政府の高級官僚と政府与党の長老たちが,その存在に気付いたとき,本気で怒ったってことさ。本気で,厳重な抗議を申し込んだんだ。笑っちまうよ」
「ぼくには素直に笑えない」
矢作俊彦:眠れる森のスパイ,第25回,1985年

……『米食の習慣を破壊することで,日本の原則に劇的な転換をもたらそう』ってさ発令書にちゃんと書いてあったぜ。しかもさ,そんなものが,一九六〇年まで生き残って,予算をとってたんだからな」
「活動はしていたのか」「一九五一年までさ。一級行動――今で言うランクAの作戦行動をしてたらしい。実体は判らないんだ。どこにも記録がないんだよ。そこから推測するに,――たとえば,製パン業者に対する技術供与,原料の優先割当て,それにパン食の宣伝,そんなことで金を使い散らしていたらしいな。たとえば,保守党の文教族に取り入って,将来的な給食制度全体を操作するとかさ,――マーヴェル・コミックと五十歩百歩だ。何の実効もあがっちゃいない」
同,第26回.

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を読んで,あれ,これ読んだことがあるというくだりが何か所もあった。引用した箇所は矢作俊彦が1985年に連載した小説の一節だけれど,その少し前,東郷隆とともに,「R計画」に対峙するスパイ(THE ITAMAE)についてFM番組で話しているのを聴いたことがある。

復旧

焦った。プラグインを更新した途端,画面が真っ白になってしまった。いまだPHPを理解しているわけでない。初日は,「トラブルが起きたときの個別の条件」で検索をかけたものの,そこから出てくる情報は,データベースがクラッシュしたときの復旧の仕方など,手が出ないものばかり。

起きたのは「画面が真っ白になった」ことで,これをキーワードに検索したところ,こちらのサイトが現れた。

そこから復旧の道は早かった。

下手に知ったかぶりするのではなく,状況からきちんと検索をかけていくことが大切だと学んだ。いやはや。

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