2005年6月

06月03日(金) 30秒  Status Weather曇りのち雨

 Amazonで音楽アルバムを検索すると,モノによっては30秒ほどの試聴データがアップされている。たとえばジョン・ゾーンのネイキッド・シティや,吉田達也率いるルインズのアルバムなら,30秒あれば1曲まるまる聞けてしまうから便利だろうけれど,ことアンビエントモノには,まったく意味がない。意味がないからこそ,Amazonでアンビエントモノを試聴するばかばかしさは妙に癖になってしまう。

 チロチロチロ,ピローーーン,コツッーーーン(フェイドアウト)
 ットトット,んーーーー,ピャラン,(Am)?(C)(フェイドアウト)

 そんなのばかりだ。

 最近,フリップ&イーノの3rdアルバムが発売された。前作から30年ぶりだ。いまだ手に入れていないが,巷間,やたらと評判がいいので検索したところ,全曲試聴ができる。曲の外観をとらえるのに役立ちそうもないな,と思いながらも,1曲目から順にダウンロードしてみた。

 で,どのようなものだったかというと,よほど特異にイマジネーションをかき立てる体力を携えた輩でもなければ,この30秒で聞かれる音やフレーズが延々と続くのだろうと推し量るにちがいない。まあ,そういうものだと想像していたまんまで,あまりの直球(アンビエントのだけど)勝負に,やっと演奏と年齢にバランスがとれたな,と感慨一入。ということは,前2作は,何も20代でつくらなくてよかったのではということになってしまうのだけど。

 さて,これで購買欲がかき立てられるかといえば,初手からフリップ&イーノで検索する奴らにとっては,試聴できたからといって買う/買わないに差が現れはしまい。


06月04日(土) Cola L-1  Status Weather曇りのち雨

 10年くらい前につくったKORG T3による習作。
 同期モノとして考えていたものの,意外に音数が多くなってしまい,スタジオでは練習しなかったと思う。私はあまり作りこま(め)ないので,生音に差し替える余地は十分にある。

 mp3で2.1M。イントロ数秒の後,いきなり始まりますので,ご容赦のほど。

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06月05日(日) 怒りと響き  Status Weather曇りのち晴れ

 最近の日記です。

 親が子を叱る場面に典型的な物言いは,果たしてどこで学ぶのだろうかと,最近,不思議に感じる。子どもの頃,親に叱られたときのようには,自分が親になってみると,果たして言葉が出ないのだ。
 手を出すことは初手から選択肢に入っていないので,どうやって正せばいいのか,いやまったく困ってしまう。「自分がそうされたらどう感じるか」「決定的に手応えがなくなってしまったらどう感じるか」,怒るときは結局,そのあたりを行きつ戻りつ。たとえ説得力に欠けようが,そこに働きかけるしか術を知らない。
 私の親も,怒るときにどうすればいいのかを悩んだりしたのだろうか。そんなこと聞いたことはない。


06月08日(水) ユタカ  Status Weather晴れ

 土砂降りの平日,夜に昌己と待ち合わせ,川沿いにある飲み屋で夕飯を取った。以前から気になっていた店で,ただ,一人で入るには気が引けるといった佇まい。いつもだったらタイ料理屋に流れるのだけど,その日はその店をふと思い出したのだ。
 ビルに2階にあるその店に入ると,ジャズをBGMに,音を消したテレビでは野球中継。カウンタと丸テーブルひとつ,ホットスポットになっているそうで,窓に沿って渡されたボードに合わせて数脚のストゥールが据えられていた。

 酒を飲みながら,話は相変わらずくだらない話に終始する。
 「尾崎豊が死んだ日に録音した曲があるじゃないか」
 そんなこと急に言われても,録音した回数(曲ではなくて)からしたら,それは数知れないのでピンとこない。
 「たまたま,お前のところで飲んでいて,部屋で録音してたら,翌朝のニュースで知ったってことあったじゃないか」
 思い出した。まだT3を手に入れる前で,すずらん通りで買った中古ギターとカシオトーン程度しか楽器を持っていなかったころのことだ。
 「たまに聞くんだけど,ホント情感が籠ってなくてさ,あのときも“尾崎豊が死んだのにこれかよ”っていってたじゃないか」
 「思い出した。とはいっても,何の思い入れもなかったから,あんな感じになって当然なんだけど」
 「それにしても,さっぱりしすぎていて爆笑しちゃうんだ」
 昌己がギターのカッティング,私はカシオトーンでパーカッション系の音色ばかりを出していた筈だ。音が皆,短いし,貧弱なんで輪をかけて情感が感じられなかったと思う。
 私は持っていないが,昌己のもとには残っているので,聞き直してみたい。


06月10日(金) クロニクル  Status Weather曇りのち雨

 1970年代の終わり,キング・クリムゾンは解散して数年が経ていた。ということは,レコード店に行けば『宮殿』から『レッド』までのオリジナルアルバムに加え,『USA』『新世代への啓示』といったライブやベストアルバムまで手に入れることが出来た。『アースバウンド』の国内盤が発売されるのは,それからかなり先のことだったけれど。

 初めて買ったのは『暗黒の世界』だった。それから『アイランド』『太陽と戦慄』と続き,懐具合に余裕が出来てから『宮殿』,最後に手に入れたのは『レッド』。およそ5年のバンド活動のなかで作り上げられたアルバムすべてが私の部屋のレコードラックに収まるまで,3年近くかかったと思う。
 その後,1981年にバンドが復活して以来,つい最近までは経年的に新譜を聞いてきたが,その前は前後脈絡なかった。だからどうだったと言うまでのことではない。ただ,かなり後になってから1980年のプレ・キング・クリムゾンのライブ音源が登場したり,1984年のラインナップ最後の音源がリリースされると,時系列が乱れ妙な感じがしたのだ。

 P-MODELを意識的に聞き始めたのは1985年。それ以前のアルバムも,70年代の終わりにキング・クリムゾンをそうやって聞いたように手に入るそばからターンテーブルに乗せて行ったので,必ずしもリリース順でなかった。P-MODELに関しては,当時のライブがアルバムとしてリリースされているのは今日までビデオ(DVD)1本のみ。このライブは私や昌己,徹,裕一も見にって,しっかり映っているので,記憶が混乱することはない。

 ところが最近,1984年のライブ音源を聞く機会があった。聞き入ってしまったのはいうまでもない。が,どこか自分のなかで落ち着きが悪いのだ。

 と,書いていて,いや,こんなふうに感じることのほうが特殊ではないか,と気づく。いやはや。


06月13日(月) 遠近法  Status Weather晴れ

 最近の日記です。

 あるバンドの20年近く前に行われたライブ(ブートレック)を手に入れた。そのバンドのライブ音源が今日まで残っているとは思いもしなかったので,正確な日時を確かめもせずにパソコンに取り込んで聞いてみた。ひたすらにレイドバックあるのみ。
 と,この日のライブ,私は会場にいたのではないか??? そのまま聞き続ける。
 そして奇声。私の声だ。

 「三十年も,三日も,要するに遠近法上の問題にしかすぎない。
 だが,ある種の映像は忘れなければいけない……。」
   サン=テグジュペリ『人間の土地』(p.169,新潮文庫)

 いや,十八年前のことだ。


06月15日(水) レイドバック  Status Weather雨のち曇り

 まずい。1987年,1988年のブートレッグばかり聞いている。

 記憶なんて実にいいかげんななものだ。こっちとあっちを繋げて,でっちあげたものがどれほどあることか。その思い違いが面白い。
 手応えを等しく実感する術はなく,だから,五感に触れると思い出すのではない。思い出すために五感を動員する。


06月17日(金) あのころ  Status Weather曇りのち雨

 コンビニで立ち読みした「アエラ」の書評コーナーに,斉藤孝が「あのころブーム」なんてことを書いていた。いちいち癪に障る物言いだったけれど,返す言葉がなかなか見つからない。


06月18日(土) それは実在する  Status Weather晴れ

 ライブハウスを出ると,夜9時を回っている。開演前に飲んだコップ1杯のビールはとっくに抜けてしまい,それどころか身体中の水分がこの2時間で跡形もなく吹っ飛んで行ったかのような喉の乾きだ。
 「ともあれ,どこかで休んで,何か飲もうぜ」
 その声は妙な膜がかかっているかのように聞こえる。頭の奥にいまだエコーし続ける音の残骸は翌朝まで続く。平行感覚は失せてしまった。どうやって身体のバランスをとればいいのだろう。ライブを見た夜は,同じことの繰り返しだった。

 そのころは酒を飲むこともなく,簡単な食事をとって駅で別れた。
 
 電車のなかで,耳鳴りをBGMにその日見たライブを反芻する。部屋に戻るころには,喉の乾きは癒え,足腰に鈍い疲労の跡がぶらさがっている程度に回復していた。1曲目はあれで,次は,そして。レコードを引っぱり出し,その順番で聞き直す。数ヶ月,近郊でライブの予定がないときは,1曲ごとカセットテープに録音しなおして,ライブに行く代わりにした。

 翌朝。
 かすかに残る耳鳴りに,昨日のライブが甦る。


 「郷愁,それは知られざるものへの憧れだ……。憧れの主体,それは実在する,だがそれを言い現す言葉が存在していない。
 ところで,ぼくら人間の郷愁ははたして何であろうか?」
   サン=テグジュペリ『人間の土地』(p.213,新潮文庫)

 という箇所を引用して書こうとは思っていなかったのだけれど。


06月19日(日) 習慣  Status Weather晴れ

 「こんがり焼けた トーストに
  あったかいミルク

  指先でちぎって
  口にはこぶ
  大切な儀式
  
  これは習慣です」
   倉多江美『一万十秒物語』(上巻p.266,ちくま文庫)

 かの作者は「1億円あったら,何に使いますか」のアンケートに対して,
 「知りたかったら,私に1億円渡してみませんか?」
と答えた。


06月23日(木) 五新くん  Status Weather雨のち晴れ

 「夕飯ただで食えるんだ」という誘いの釣られて,そのサークルの部室まで行ったものの,どうにも入りづらい。ただでさえ,春先のやけに埃っぽい風が,おいでおいでをするかのようにまとわりついてくる。このまま並んで立っていても埒があかない。
 「どうするよ」
 私は徹に言った。
 「もう少しまってみようぜ。先輩がくると思うんだ」
 「部費だけ集めて,ハングライダー手に入れたはいいが,初めて乗って墜落させた先輩か」
 「そっち見てろよ。まだギプスはめてるから,お前でも判る筈だからさ」
 「詐欺師みたいな先輩が,本当に夕飯奢ってくれるのかよ」
 「その先輩じゃなくて,勧誘用にサークル会費から捻出してるっていうんだ」

 会社員が日曜大工でつくったようなベニヤ板のドアの前に近づこうと,私たちの間に割って入ろうとする男がいた。気づいた途端,風体よりも先にギャツビーの匂いが辺りと包み込む。それは匂いの伝搬速度が,光速に勝った瞬間だった。
 私たちは無言で,その男の行く先に目をやった。初手から盗まれるものを置かないとでも決めておかなければ,決して使うことのないであろうカギをガチャガチャいわせている。
 私たちは最初の一言が出ない。
 「入部希望の方ですよね」
 それが私たちに向けられたのだと気づくのに,ひと呼吸が必要だった。振り向きもしないのだから,目の表情から何も判らない。語尾に引きずっているのは,北関東独特のイントネーションだ。
 彼が,学部は違うけれど,同じ学年の五新くんだった。(つづく)


06月25日(土) 五新くん 2  Status Weather晴れ

 バスルームシンガーにケンタッキーフライドチキンの割引券を奢られたときのこと。(このあたり)それまでも私の手のひらとはまったく異なる世の中に住んでいるのだと感じたことがあったけれど,こ奴の趣味がまったく理解できなくなった。聞く気はなかったのだが,つい「芸能人でいうとさ,どんなタイプが好みなんだ?」と,聞いてしまったのだ。口に出したのが「岡本信人」。
 「“おかもとのぶと”って,印刷所の現場主任みたいな俳優?」
 そのころは,まだ『ナニワ金融道』がはじまったばかりだったので,漫画の登場人物にはたとえられなかった。
 「きみはフィフティーズじゃなかったのか?」
 「でも,タイプは岡本信人なの」
 
 思い返すと五新くんは,岡本信人とつぶやきシローを足して2で割り,そこに人のよい公務員を加えたようなイメージがした。ていねいな言葉遣いなのだけれど,どこか不躾な感じがついてまわる。

 彼のあとについて,私と徹は狭い部室へと入った。なにやらコピーの束を小分けにし,古びた机に並べては,またかき集め,再び分け始める。
 「手伝いますよ」
 徹がいうと,「ああ,いいですよ。私の仕事ですから」取りつく島もない。やはり次の言葉が出てこない。沈黙にひたすら弱い私たちは,
 「みなさんいらっしゃるころ,また来ます」
 五新くんは何のリアクションもなく,もちろん引き止めもしなかった。外に出た私たちは,部室にギャツビーの匂いが充満していたことに気づいた。(つづく)


06月29日(水) NOOOOO!  Status Weather雨のち曇り

 鈴木敦秋『小児救急 「悲しみの家族たち」の物語』(講談社)を読んでいた。なにせ“物語”だし,まったくズルい書き方の本だけど,パンクにも等しいテーマを抱え込んだ本なので,いきおい怒りが込み上げて来る。わが国にまだいると思しきパンクスよ,小児救急をテーマに叫ぶがいい。

 五新くんの続きは,まだ書いていません。



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