2006年8月

08月02日(水) UTTER MADNESS  Status Weather晴れ

 MADNESSのライブが終わって1週間経つのに,体調が戻ったのはやっと昨日あたりから。気がつくと“SHUT UP”や“THE SUN AND RAIN”を口ずさんでしまい,何だか仕事にならない。フジロックでも盛況だったようで,あと1回見たかったというのが実感。


08月06日(日) 距離  Status Weather晴れ

 「エルンストにとっては,どんなに画家が対象を正確に描きだそうと努めたところで,両者のあいだには埋めがたい距離があり,しかもそれはあくまでも人間の感情のあたたかい部分である。だが,感情のあたたかさなど何になるのか。そこで,エルンストは感情ぬきに埋めがたい距離を『因襲的な技法と新しい技法とのあいだの距離』として呈出したのにちがいない」
   坂崎乙郎『ふたたび絵とは何か』(河出書房新社,1978.)


08月10日(木) 日記  Status Weather晴れ

 塩山芳明『出版業界最底辺日記』(ちくま文庫,2006)を読んでいて,いちばん面白かったのは次の一節。

 「帰りの『あさま531号』で,『澪標・落日の光景』(外村繁・講談社文芸文庫・本体951円)読了。親が私小説家でなくてホッ。完璧な露出狂。境地はニャン2倶楽部』か『熱写ボーイ』。(後略)」

 この日記,何が凄いといって,通勤の車中で読んだ本の記録が掲っているのだけれど,「『夜の果ての旅(上)』(セリーヌ・中公文庫・当時定価440円)を。予想外に面白いので,50ページのみ読み,『突破者の条件』(宮崎学・幻冬社・本体1600円)に。」というように,何ページ読んだかが記されている点だ。
 
 私がこのところ通勤のとき読んでいるのは『人形たちの夜』(中井英夫・潮出版社・当時定価1,000円)だけど,何ページ読んだかなんて把握などしていない。

 平成に入ってからの杉作J太郎や大井武蔵野館に関する記述,たとえば,「ネームの翌日に7Pの原稿を耳を揃えて入稿できる奴なんて,4コマ漫画家を除けば,杉作J太郎しかいない」。
 富岡多惠子の『ボーイフレンド物語』から引用して「矢作俊彦ばりの,ハードボイルド小説も書いてくれ。」と締めるあたり。
 結局,最後まで読んでしまったのは,情報を料理する腕前が冴えているからだと思うのだ。


08月12日(土) pick up  Status Weather曇り

 今日の日記です。

 家族が買い物に出かけているのをいいことに,半日かけてCDをつくっていた。
 蝉が鳴かないというだけで真夏のような気候が続いた2か月ほど前,タイ料理屋で飲んでいると,昌己が「『蛇を踏む』にボーカル乗らないかな」と言う。それは私の部屋でKORG T3のトラックにベースラインを被せたとき以来,棚上げにされていた懸案だった。そのまま10年が経ってしまったのだ。

 思い出したかのようにつくったCD-R「NOT FOR PROMOTION」を押し付けた一人に私は先日,「ボーカルを乗せてみないかね」と囁いた。彼女がカラオケで歌ったデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」は,やけにインパクトがあったのだ。
 断られはしなかったが,あいにく歌詞とメロディは手持ちがないのでDIY。他にもボーカルを乗せられそうな曲がないかと今日,1時間かけてリストアップをし,音をパソコンに取り込んだ。揃えた11曲の半分はオリジナル,残りはカバーだ。繰り返しの多さ,メロディラインの欠如,構成の単調さを差し引かれると,いったい何が残るのか心もとない曲ばかり。数曲は歌詞とメロディをつくった記憶があるのだけれど定かでない。
 カセットテープのマスターに比較すると,T3からMTRを経由させライン録りでパソコンに取り込んだので,音だけは悪くない。CD-Rのタイトルは「ONLY SELL」。ボーカルが入ったものが出来るかは未定。ボーカルが入っていないCD-R(つまり今日つくった奴)は無料配布。


08月13日(日) 某月某日 日記  Status Weather晴れ

 実家に戻ったところ,昭和の終わり数年分の日記が出てきた。こんな調子。

 某月某日
 10時すぎに起き,12時前に家を出た。本屋でロッキンオンを買い,談話室(注:まずいランチが安い喫茶店。当時300円程度)へ。昼食をとり,外へ。雨が降り始める。お金を引き出して学校へ行く。途中,伸浩と会い,とにかく6号室へ。3限。体育は何とか終了。かなり疲れた。4限は後ろで徹,裕一,昌己がごちゃごちゃ話している前で本を読んでいた。終わって,サークルの話し。駅まで付き合い,週刊宝石(注:当時,矢作俊彦が『眠れる森のスパイ』を連載中)と夕食を買って家へ。芳弘から「鏡像段階」についてのコピーが来ていた。夕食をつくって食べ,6時半から8時半まで眠り,家に電話をかけて少し経った。
・雨がうっとおしかったが,今はやんだようだ。
・さて深夜番(注:精神科でのバイト)だ,ああ。(PM9:52)


 と,思い出したのは,書き終えた時間をほぼ記録していたこと。なんで,こんなことしたのだろう。


08月14日(月) 某月某日 古本  Status Weather晴れ

 某月某日
 8時半に起き,学校へ。カバンとってきて教室へ。休講なのを忘れていた。帰ってきた。少し本を読んで1時間半くらい眠った。11時すぎに古本屋へ。『鏡の国のアリス』『大きなお世話』『芽むしり・仔撃ち』『われらの時代』『仮面の告白』『大いなる遺産』『狭き門』『チャンドラー傑作編集4』『就職しないで生きるには』『Billy(創刊号)』他1冊。計1370円。あと『大暗室』も。帰ってきて『就職……』が入っていないのに気づき,電車で取りに行った。一回目に古本屋へ行く前にてんぷらうどんを食べた。帰ってきて4時ごろ。ごはん400円。5時すぎから8時半まで眠り,テレビを見た。食器を洗って今。(PM9:15)


 この頃の日記をチェックしてみると,最後まで読んだ記憶がどこにもない,ナット・ヘントフの『ジャズ・カントリー』(最近,読み終えた)や島尾敏雄の『夢の中での日常』を読み終えたことになっている。まったく記憶にないというのは,どういう読み方をしたのだろう。


08月17日(木) カポーティ  Status Weather晴れ

 タイマーをセットしたカセットデッキが目を覚ます。昨日,一昨日,その前の日も,このリフが部屋に響いて私たちを起き出した。2段ベッドが10脚ほど押し込められている。入れ替わりしながら,14,15人が2週間から先,ここで暮らすのだ。ローリング・ストーンズの“サティスファクション”。昨日あたりからは,失笑が漏れはじめた。関西系のお笑いよろしく,くりかえしは笑いを誘う。
 卒業式から数日。仕事につくまでの数週間を利用して徹とともに北関東の合宿免許に参加したのだ。

 「数をこなしただけのゲーマーみたいな教官に,なんで非道い物言いされなきゃならないんだろう」
 3日も経たず,徹は懐に忍ばせてきた自制心を投げ捨てた。
 「北関東の人間とは肌が合わねえや」
 3食とも,量だけは合宿参加者に十分な分だけ用意されていたものの,冷凍食品や冷めたものが多く,毎日食べているうちに,しだいに体調が悪くなってきた。
 「ここのところ運動してないし,飯だけ食ってブロイラーみたいだ」

 散歩を兼ねて,電話帳を頼りに古本屋を探し片道1時間ほど歩いた帰り,合宿場の近くの書店で雑誌を手に入れた。(つづく)


08月18日(金) カポーティ 2  Status Weather晴れ

 雑誌「Switch」でトルーマン・カポーティの特集が組まれていたのだ。80年代に入って初めてカポーティが雑誌の特集に登場したのがこの企画ではないかと思う。といってもカポーティの特集など,その後もほとんど記憶にないのだが。
 数年前にカポーティはこの世を去っていたのにどうしたことだろうとページを捲ると,ついに“叶えられた祈り”が刊行されるのだという。

 合宿所に持ち帰り,ベッドで読んでいると,ここ数日で打ち解けた同室の一人がいう。
 「お前たち,いつも楽しそうに話してるよな」
 私と徹のことらしい。傍目には確かに楽しそうに見えるかもしれないが,実際のところはボケとツッコミのような反射神経のみが行き来しているだけなのだ。ただ,そのときは,“楽しそうな”というあたりに別のニュアンスを感じた。野郎2人で楽しそうに話している奴がカポーティ読んでいる。なるほど。手にしたのが上田秋成や稲垣足穂じゃなくてホッとしたけれど,まあ,そんなふうに見られることもあるのだと,実際,このときばかりは何がしかを学んだ。

 数年後,『叶えられた祈り』の日本語版が刊行されたものの買いはしなかった。川本三郎の訳じゃな,というのが正直なところ。先日,文庫になったのを機にまあ,いいかと読んでみた。“ヘンリー・ジェイムス”なんて表記のまま平気で刊行してしまう出版社も,いやはやどうしたことだろう。“ハリーズバー”は“ハリーのバー”。「旅愁」でそんなふうに訳されてでもいたのだろうか。

 小説自体は,映画『名探偵再登場』(だったろうか)のなか,スクリーンでみたカポーティのイメージと近しい。エッセイ集に収められた,とても美しい文章(コレットとペーパーウエイトのエピソード)が紛れ込んでいる箇所を読んで,『冷血』以後に記されたエッセイや小説(『カメレオンのための音楽』)と合わせて,ほぼすべてを『叶えられた祈り』のドラフトと捉えるのは穿ちすぎだろうか。


08月19日(土) ラジオ  Status Weather晴れ

 自主制作CD-RWの1曲目は「ラジオのように」。
 “ラジオのように 流れてゆくよ”という箇所だけ歌詞はできていたものの,後を続けるのも,自分でボーカル入れのも乗り気がせず,結局,今日までそのままでいる。
 数ヶ月のうちにボーカルが被る予定だけは立ててしまった。どのような歌詞やメロディを乗せるかは,いまだ検討中。
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08月20日(日) デヴィッド  Status Weather晴れ

 徹と昌己の趣味には多くの接点があった。まるでしりとりをするかのように,「向かいの飯場の人たち 助けている」「ほっとけばいいのに あんな野郎」と,つげ義春の漫画のなかの一節を言ったかと思うと,その続きを即座に答える。
 デヴィッド・リンチの映画好きというのも共通していた。数秒間のダンスシーンをみただけで,それがデヴィッド・リンチの映画だと判る。(これなら私も同じように判断する自信はある)
 趣味だけではない。こ奴らそろいも揃って,天変地異で一番怖いのは津波だという。多摩育ちという共通点はあるものの,多摩っ子にとってそれほど津波は恐ろしいのだろうか。

 自主制作CD-RWのラストは“Blue Velvet”。このトラックにボーカルを被せられるものか,かなり心配なのだが。



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