2007年3月

03月01日(木) 40代のニューウェイヴ 5  Status Weather晴れ

 かなり前に記した荒井注ネタを語ってくれたのは影野さんだ。繰り返すと,彼女がタイにホームステイしていたときのこと。こう尋ねられることしばしばだったという。
 「チュウアライ?」
 ――注? 荒井?――なんで私が荒井注なのよ,
とばかり,彼女はこう答えたとか。
 「ナンダバカヤロウ」
 以来,彼女はタイで「ナンダさん,バカヤロウさん」と呼ばれていた。

 語学に長けていて,音感があって(曲を聞いてコードがとれるというのは,われわれのまわりにおいて希有なこと),カラオケでディヴィッド・ボウイの“Let's Dance”歌わせりゃ上手いし,機会さえあればスタジオで大変有能な(われわれが何一つもちあわせていないものばかり)才能を,日頃はあたりに放り出している。
 結局,スタジオ入りが決まったのは彼女が京都へ引っ越すことが決まった後。このタイミングこそ,まったく懐かしくなるほど変わらない。

 当初の予定では“フロアへようこそ”をギター,ボーカルとともに録音するという,10数年ぶりに高い志を抱えたスタジオ入りだった。ところが,カセットテープで止まってしまっている私の知識では,MDやらCD-Rに保存可能なMTRといわれてもまったく使い方が判らない。外付けのカセットデッキにテープを放り込んだものの,モニタもできず,「録音できてるよ,きっと」など無責任なこと言って,スタジオを後にした。
 もちろん家に戻り再生したカセットテープは延々と無音を続ける。

 昌己に声をかけて,再度スタジオ入りしようと考えたのは,あの無音のカセットテープを前にしてのことだった。(続けるかどうか判りません)



03月03日(土) ポートレート  Status Weather晴れ

 「恵みの隙間から千フィート下へ飛べ。その下の方に,はるか下の方に,世界の息吹が吹いているのだ」
   小岸昭『離散するユダヤ人』岩波新書,p.83,1997.

 と,この本を2度読み終えて,何が印象的だったといって,哲学者やら文学者やらの巷に流布するポートレートは,いったい何を思ってあんなへんてこなポーズをつくって写っているものが多いのかということだ。ナダールからアルクール写真館あたりまで,撮るほうの考えは様々記録に残されているけれど,いったい撮られるほうはどんな気持ちだったのだろう。ホーフマンスタールやローゼンツヴァイクのポートレートを見ると,気になってしかたない。



03月05日(月) ツボ  Status Weather晴れ

 昨日の日記です。

 午前中にテレビを見ていたときのこと。東スポ関連の表彰式の壇上で,ビートたけしが,「どげんかせんといかんとです」と言ったとたん,爆笑してしまった。
 ところが,家内や娘は何が可笑しいか,全く伝わっていない。むちゃくちゃ面白かったんだが。



03月06日(火) COLA-L-1  Status Weather晴れのち雨

 今日の日記です。

 20代の頃,歌詞は自分で書いて歌っていた。訴えようというメッセージはなく,ラブソングなどもってのほか。それでも言葉だけで歌詞は事足りる。“天才病患者”や“Pinch Operation”からしばらく後,KORG T3でつくった曲ではじめて歌詞を乗せたのがこれ。

 ガラスもしくはバレエ(データ調整中)

 会社帰りに中古CDショップでYMOの“After Service”がかかっていたのを聞いてつくったと記憶している。

 これは意外と歌詞を覚えていて,今日,わけあって自分が以前書いた歌詞をメールに記した際にも,とっさに出てきた。 

 ガラスもしくはバレエ

 むしろあきらめを誘う声
 由来探る行列 彼方に霞む

   森にガラス渡す その続き隠す 空の泡迷う
   森にガラス渡す その続き隠す 互いの身に遠く

 あるがままでなしにあったままでなくなんでもないありのままに



03月07日(水) 期限  Status Weather晴れ

 家内だけではあるまいが,彼女は食料品を買いに行くと必ず賞味(費)期限を確認してカゴに放り込む。近所の小さなスーパーマーケットでは“賞味期限切れ品質保証”していたり,別の店では“賞味期限,実は当日”なんて品物を,レジでサービスと称して放り込まれたりするから,少しは気にしなければ世の中渡っていけないのだろう。

 ところが,ひとたびそれらが家の冷蔵庫に入ると,“賞味(費)期限”が近づいたものから飲み食いし,気が付けば,結局,食べるのは賞味期限ギリギリなんてことが日常茶飯事。
 ならば,買い貯めなどせずに,“賞味期限,実は当日”を手当たり次第に,その日のうちに胃袋へと入れたほうが,よほどプラグマティックじゃないか思うのだが。



03月09日(金) いかもの食い  Status Weather晴れ

 後で書きます。



03月10日(土) ロング・グッドバイ  Status Weather晴れ

 矢作俊彦の「常夏の豚」連載第4回がとても面白かったので,1月号から読み返そうと思っていたところ,メールが届いた。
 (ある時期までの)村上春樹の文章とレイモンド・チャンドラーの小説が好きな彼と最後の会ったのは2月の始めのこと。小鷹信光の『私のハードボイルド』を肴に新大久保の韓国食堂で遅くまで飲んだ。中に医学書院という出版社に憂鬱な気分で通う件があったそうで,医学書を編集する小鷹信光の姿を想像し,爆笑してしまった。カウンターでいい案配になった彼と新宿駅まで歩きながら,『ロング・グッドバイ』が出たら,また飲りましょう,といって別れた。
 メールは「村上春樹訳『ロング・グッドバイ』を購入しました」と始まっていた。

 「ミステリ・マガジン」3月号を捲っても,単行本を買おうかどうか考えあぐねていたのだ。と,書いて,清水俊二の訳文の影響のもっとも大きなものは,この“バカボンのパパ語尾”だと感じていたことを思い出した。つまり,“~なのだ”と止める文体だ。(続きます)



03月11日(日) ロング・グッドバイ 2  Status Weather雨のち曇り

 チャンドラーの『長いお別れ』は,1973年1月~1974年5月まで,「ミステリマガジン」誌上で連載漫画化されている。清水俊二訳をもとに矢作俊彦が脚色を加え,漫画はダーティ・グース,つまり矢作が兼任したものだ。

 ハワード・ヒューストン監督による映画の漫画化という手法は,後の大友克洋との共作「気分はもう戦争」はじめ,矢作俊彦の小説の随所にみられる。



03月15日(木) Sleepy Head  Status Weather晴れ

 15年ほど前にスタジオで一度やったきりの“Improvisation #1”をT3で打ち込みしなおしている。3連が3/4拍子になった経緯はよく判らない。

データ調整中



03月16日(金) ロング・グッドバイ 3  Status Weather晴れ

 「……それで,お前には何がある?」
 「語るに足るほどのものはない」と私は言った。「今年になって,一軒家に住めるようになった。丸ごとの一軒家だ」
   レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』(p.107,村上春樹訳,早川書房)


 「……お前は何をもってるんだ」
 「大したものはない」と,私はいった。「ことしは家を手に入れた――間借りじゃない」
   レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』(p.95,清水俊二訳,早川書房)


 「『家を手に入れた,――間借りじゃない』彼は,しかし,同じ本の中で呟いている。
 『その年,私が借りていた家は二つの理由から安かった』と。
 本当に自分が何を欲しいのか,その時その場,間違いなく知り尽くしていた男が,こんな見栄を張る。家が欲しいわけもなく,女を必要ともしていない。なのに見栄を張る。それが,ほほえましいほど美しかった時代があった。そのとき,このアメリカ人はアメリカの時代の真只中にいた」
  矢作俊彦『ドアを開いて彼女の中へ』(p.33-34,新潮文庫)

 見栄と読んでも違和感はなかった。ただ,新しい訳をもとにすると見栄を張っていたわけじゃないことになる。



03月17日(土) ラジオのように  Status Weather晴れ

 ブリジット・フォンテーヌの「ラジオのように」を初めて聞いたのは25年程前,雪が降った3月のこと。彼は手に入れたばかりの8ミリビデオで作品を撮るという。暇を持て余していた私が駆り出されたわけだ。
 早朝,始発電車がやってくる前の線路で撮影するシーンがあったため,夕方に彼の家へ向かったまま日が昇るまで,カットを撮り貯めた。さすがに2時をまわると会話は淀む。しかたないので,レコードをターンテーブルに乗せながら,うつらうつらしていると,舌ったらずのフランス語の歌が聞こえてきた。
 「ブリジット・フォンテーヌ聞いたことないか?」
 「何だそれ,知らないな」
 「フランスのジャズさ。それじゃ,アート・アンサンブル・オブ・シカゴも知らないよな」
 「ジャズって,聞いても面白くないんだよな」
 「別のにするか」
 しかしそのまま,アルバム1枚聞いてしまったのは,当時の私にも,理解できるリズムとメロディを備えていたからだと思う。

 という記憶と,この曲をまとめた動機はまったく関係ない。当初イメージしていた歌詞が“ラジオのような”ものだったのだ。

データ調整中

 知人の手による歌詞ができあがり,歌入れのセッティングが出来たら,と考えていたところ,肝心のオケがまだ完成していないことに気づいた。KORG T3の同時発信音は8色だったはずなので,実は潰れている音が多々あるのだ。
 以前から一度やってみようと考えていたこと,つまり数トラックに分けてパソコンに取り込み,その後一本化してみた。半日かかったものの,何とか出来上がったので,これまでアップしていた音源と差し替えた。



03月22日(木) ノロ  Status Weather晴れ

 週末のこと。寒気と嘔気がするので寝込んでしまう。月曜日,かかりつけ医にいくと「年末に流行ったノロウイルスでしょう」との診断。なぜ,今頃?

 2日ばかり寝床で文庫本を捲りながら過ごした。こんなとき,10代には春陽堂文庫の江戸川乱歩や北杜夫の小説を読んだものだけれど,ここずっと決まって読むのは中井英夫の小説ばかり。『とらんぷ譚』を久しぶりに読み返して驚いたのは,筋を記憶しているとばかり思っていた『幻想博物館』さえ,見事に記憶が飛んでいることだ。最後の短編を読み終え,「こんな締めくくりだっただろうか?」と呆気にとられた。少なくとも,記憶していたものとはまったく違っていた。



03月24日(土) いかもの食い  Status Weather晴れのち曇り

 徹がペヤング(即席焼そば。ちなみに真偽はされておき,語源は“ペア・ヤング”だという説がわれわれの間では通用していた)に,いかの薫製を入れると旨いなどというものだから,当時,勤めていた会社の上司に言わせると,それは「いかもの食い」なのだそうだ。
 だそうだ,というのは,“いかもの食い”という言葉自体,当時の私は知らなかったからで,「いかものですよね,確かに」などと,微妙なリアクションをとったものだから,上司に「いかもの食いの意味くらい知らないのか?」と,さらに突っ込まれた。
 子どもの頃,夕飯に秋刀魚が出ると,決まって目の玉だけに箸をつけたのも,いかもの食いかというと,意外と同じような経験をもつ知り合いはいるものだ。
 漆喰はさすがに知らないが,知人は茶葉をおやつ代わりにしていたという。くじらの脂身を湯にさらしたものに酢味噌をつけて,なんていうのは,私からするとペヤング+いか薫より遥か“いかもの食い”だと思いはするのだ。



03月26日(月) リチャード  Status Weather晴れ

 昨日の日記です。

 別の曲のデータを探していたところ,しばらく見つからなかった“Porter”という曲のFDが出てきた。夜2時間ほどかけて,パソコンに取り込んでミックスした。

データ調整中

 昌己に「リチャード・バルビエリが乗り移ったみたい」と称された(果たして褒め言葉なのだろうか?),KORG T3による後半のサックスソロがほとんど演歌なのはさておき,いったいどうしたことで,最後の最後に1拍分データが吹っ飛んでしまったのだろう。リズムとキーボードのバランスが無茶苦茶気持ち悪い。

 もう一度データをチェックし,そのうち差し替えるまで,このバージョンをあげておきますのでご了承ください。

 曲のアイディアはもちろん,ジャパンの“Night Porter”。デヴィッド・シルビアンは同名の映画にインスパイアされたのだろうけれど,リリアーナ・カバーニ,シャーロット・ランブリングのコンビというと,まったく徹の趣味なのだ。
 当初は,かなりエフェクトをかけていたため,団塊世代の友人には“寺山だね”と言われたことを覚えている。寺山ミーツ・カバーニ。合田佐和子ならまだしも,あまり近寄りたくない世界だ。

 10数年前には“寺山だね”と言われた曲も,今聞き直すと,巷間伝え聞くところの渡辺淳一風にしか聞こえないのは,ひたすらに格好悪い。




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