2008年5月

05月02日(金) 物欲 2  Status Weather晴れ

 と,すっかり間が空いてしまったので,結局,何を書こうとしていたのか忘れてしまった。

 以来,決まった額を小遣いとして,そのなかでやりくりする経験をもたないまま,一人暮らしに突入した。
 途端に,物欲が頭をもたげてきた。といっても発売当日(もしくは前日)にアルバムを買い求める程度。ただ,この物欲の脆弱さは,たとえば発売日前後に買いそびれると結局買わないままであったりするので,大した物欲ではないと思う。
 確か,記そうとした何かがあったはずなのだけど。


05月05日(月) 相方  Status Weather晴れ

 岡田某が「おたくの時代は終わった」と宣言したからではないが,80年代はじめの“おたく”(この場合,多くは女性なんだけど)と似た感覚を,このところ“相方”という物言いに感じる。家庭をもった“おたく”が“相方”に変わったのかもしれない。


05月06日(火) メモ  Status Weather晴れ

 「『わたしは道に迷った』と,ドウェインはいった。『手を引いて,森の外に連れだしてくれるようなだれかが必要なんだ』」(p.212)

 「ところで――バニーの母親とわたしの母親は種類のちがう人間だったが,どちらもエキゾティックな感じの美人であり,また,どちらも愛や平和や戦争や悪や絶望,やがてくるだろうもっと良い時代と,やがてくるだろうもっと悪い時代についての混乱した議論をしこたま聞かされて,つい煮えこぼれたのだった。」(p.229)

 『チャンピオンたちの朝食』のなか,前回読んだときの折痕が残っていた。なんだか,いやな箇所ばかりだけれど,卒論に引用しようとでも思っていたのだろうか。


05月07日(水) マイケル・ケイン  Status Weather晴れ

 1980年代半ば,MADNESSに"MICHAEL CAINE"というタイトルの曲がある。シングルカットされた後,キーボーディストMike Barsonが脱退する前,最後のアルバムになる"KEEP MOVING"のA面2曲目に収められている。この曲のプロモーションビデオは「国際諜報局」のオマージュよろしく展開する。
 同じ頃,矢作俊彦は谷口ジローと組んで「オフィシャルスパイハンドブック」2作を発表した。後に,長編連載「眠れる森のスパイ」につながるこの漫画に登場する藤川五郎(スパイだからもちろん,いくつか名乗る名前の一つ)が,見た目,「国際諜報局」のMICHAEL CAINEに似ていなくはない(かなりこじつけだけれど)と思ったのはしばらく後のこと。
 2作目で,毎度のこと,ある筋からクレームがついたという噂を聞くものの,マンハッタン・オプに通じるハードボイルドのパロディにスパイテイストを絡めたアイディアは面白かった。
 連休中に,第1作「あるスパイの生活と意見」が再掲された雑誌をもってきた。そのうち,ページを整理しようと思う。


05月09日(金) 出前  Status Weather晴れ

 以前書いた記憶があるが,娘の運動会のとき,昼食に出前をとっている家族に驚いたのは数年前のこと。驚いたのだけれど,それに等しい行為をバスルームシンガーが15年以上前にしていたことを,最近思い出した。
 向かい合って座って仕事をしていた私の目に,1リットルのペットボトルが目についた。机の上だ。傍目にも邪魔にならないのだろうかと思ったけれど,次の日もその次の日も,結局,毎日,彼女の仕事机には1リットルのペットボトルが鎮座していた。
 「スーパーモデルは1日3リットルの水を飲むの」
 身長158cm,未来のスーパーモデルは言い放つ。だからといって,仕事中に机に1リットルのペットボトルを置いておくことはないではないか。仮にこぼしでもしたら,ほらみたことかと嫌みを一つ二つ用意していたが,こ奴,仕事をしているのか訝しいくらいに机上は整然としていた。
 ところで,机上のペットボトルはどこからやってきたのだろう。あるとき尋ねたところ,こんな返事が返ってきた。
 「送ってもらっているに決まってんでしょ」
 確かに送ってもらっていたのだ,職場に。そう,こ奴は通販で某ミネラルウォーターをダースで買い求め,直接,会社へと送らせていたという。
 のどかな職場だった。


05月13日(火) セロファン  Status Weather晴れ

 「『すべては海のようだ』と,ドストエフスキーはさけんだ。わたしにいわせれば,すべてはセロファンのようだ。」
   カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちのた朝食』p.286,ハヤカワ文庫

 何のためのセロファンを買い求めようとしたのか記憶にない。それでも,ある時期,文房具店へ行くと,セロファンを品定めしていたことだけは覚えている。その感触と匂い。


05月17日(土) オフィシャル・スパイ・ハンドブック  Status Weather晴れ

 『さらば愛しき女よ』のコミカライズでもなければ,『あ・じゃ・ぱん!』のそれでもない。

  データ調整中


05月19日(月) 輝ける闇  Status Weather晴れ

 「いつも彼は鋭いが朧なまなざしで私に近づいてくる。絵でいえば近景でもなく遠景でもなく,ちょうど中景のあたりを眺めるまなざしである。どこか一点に焦点がさだまること,一つの焦点を持っていることが他人に知られること,何であれ一つの立場を決定していることを他人に知られることを彼はひめやかに,かたくなに避けるのだ。」
   開高健『輝ける闇』p.88,新潮文庫.


05月20日(火) China  Status Weather晴れ

 「当時の自分が中国にどのような憧れを抱いていたかを端的に説明してくれる,現在の自分から見て最も近いと思える一つのイメージがある。それは,イギリスの元祖ビジュアル系ロックバンドと呼ばれたJAPANが歌う"Visions of China"のプロモーションビデオだ。(中略)八〇年代,他にもGang of Four(まさに「四人組」のこと)やGhina Crisis(中国の危機)といったバンドがあったし,デイヴィッド・ボウイの歌には時折Chinese GirlとかJap Girlとかいった言葉が登場し,"It's No Game"という歌ではとうとう日本人のナレーションまで入れてしまった。」
   星野博美『愚か者,中国をゆく』p.7-8,光文社新書.

 固有名詞の一つひとつが,他人事とは思えない。"It's No Game"が出てきたときは,世代論を持ち出してあれこれいいたくなったくらいに。


05月21日(水) ウルトラマリンの男  Status Weather晴れ

 中学に入って梅雨前までの一時,美術の時間は郊外写生だった。校庭に隣り合った神社に出かけて,あれこれスケッチしながら一枚の水彩画を完成させる。私は玉砂利を踏みながら建物をモチーフに,水彩画にもかかわらず,油絵のように絵の具をほとんどじかに画用紙に置いていった。
 どうした理由でか分からないが,私は24色か36色くらいの水彩絵の具をもっていた。と,名前も覚えていない奴がしきりに傍らにやってきて,絵の具を物色するような仕草をみせる。
 「ウルトラマリンある?」
 「ウルトラマリン?」
 「ウルトラマリンだよ」
 「ウルトラマリン?」
 「ウルトラマリンだよ」
 どこか具合が悪いのだろうか。初めて会話したそのクラスメイトの「ウルトラマリン攻め」に私は抗する術がなかった。(つづきます)


05月23日(金) ウルトラマリンの男 2  Status Weather晴れ

 ウルトラマリンの男の名は俊介といった。
 俊介がどうしてウルトラマリンに固執するのか,まったくもって理解できなかったものの,絵の具をきっかけに少しずつ会話が増えていった。
 授業中,ノートの端に螺旋を描いた隣に「クイーンのギタリストの髪の毛」とか,葉巻のようなスティックの横に「チープトリックのドラマー」とか,「キンクス(キングスじゃないぞ)」とか,落書きがそんなふうに変わってきた頃だ。"You really got me"はヴァン・ヘイレンで知った世代なので,POCOもTOTOも似たようなものだと思ったり,QUEENは"JAZZ"の前までだ,と頷き合ったり,2人して底の浅いプールを泳ぎ回っているようなものだった。

 1年くらい過ぎた秋のことだったと思う。自転車で俊介の家に出かけたのがはじまりだ。その広い家の一角,陽の当たらない中2階に俊介の部屋はあった。その後,何度もカセットテープを携えて,あれこれとダビングさせてもらった。すでに俊介の趣味はプログレに移行していたので,TOTOの1 stと一緒にクリムゾンの"リザード"を借りたり,やはり節操なかった。
 これも理由はわからないのだけれど,クリムゾンは"ポセイドン"が一番いいといって譲らなかった。次は"リザード"で,"宮殿"はその3作のうちでは一番落ちるのだと。
 そのころ,私がもっていたカセットテープに,"スキッゾイドマン"のフェイドアウトのところから以降を録音したものがあるけれど,みずからLPを買うまで"リザード"を録音したことはなかった。

 私がクリムゾンを本腰入れて聞きはじめるのは高校に入ってからのこと。すでに俊介と会う機会さえほとんどなくなってしまってからのことだ。


05月24日(土) 輝ける闇 2  Status Weather晴れ

 「『いろいろな物のまわりにある匂いを書きたい。匂いのなかに本質があるんですから』
 (中略)『私なら使命を書く。匂いは消えても使命は消えませんからね。私ならそうする』
 『使命は消えませんか?』
 『消えませんとも』
 『使命は時間がたつと解釈が変ってしまう。だけど匂いは変わりませんよ。汗の匂いは汗の匂いだし,パパイヤの匂いはパパイヤの匂いだ。(中略)匂いは消えないし,変らない。そういう匂いがある。消えないような匂いを描きたいんです。使命も匂いをたてますからね』
 壁にもたれ,ハイビスカスの花のかげでタバコを?みながら,私は,小説は形容詞から朽ちる,生物の死体が眼やはらわたから,もっとも美味な部分からまっさきに腐りはじめるように,と考えていた。(中略)使命が骨なら,それはさいごまで残り,すべてが流失してから露出される。しかし,匂いが失せてからあらわれる骨とは何だろう」
   開高健『輝ける闇』p.108-109,新潮文庫

 講談社からは出ていない。



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