2009年1月

01月02日(金) 非道い店  Status Weather晴れ

 量や質よりも,コストとの案配で外食する経験が心底しみ込んでいるからだろう,家族と外で食事をとるようになってから後,たとえ不味い店に入ってしまってもそのことに腹を立てることはほとんどなかった。一人で食事するより複数で食事するほうが,コストパフォーマンスのよいことは初手から理解していたのだ。

 先日のこと。以前から気になっていたイタリア料理店に入った。1階がタイ料理店で,急な階段を昇った2階の左手を入る。入って向かいに厨房を囲むようにL字型のカウンターがある以外,ボックス席は3つくらいの小体な店だった。レストランというよりダイニングバーといった風情だったものの,とにかく食事を済ませたかったので,ボックスに腰を降ろした。
 飲み物とアンティパストの盛り合わせ,きのこのサラダ,マルゲリータ,ラザニアを頼むと,まず,レタスのちぎり残しを集めてまばらに皿に敷き,そのうえにやけに濃い味付けのきのこのソテーが無造作に載せられて出てきた。不味い店ではなく,非道い店だなあと思ったのはそんな具合の皿を出された記憶が,少なくともここ数年を振り返っても思いつかなかったためだ。いや,振り返らせてしまう時点でその先は決まってしまっていたに違いない。
 その後,出てきた皿はある意味,期待を裏切らないだけの素人加減が反映されたものだった。いや,まったく。



01月05日(月) Blue monday  Status Weather晴れ

 最近の日記です。

 堀江敏幸の「回送電車」シリーズと交互に,年明けに古本屋で買い求めた開高健の文庫本を,このところ読んでいる。『青い日曜日』(文春文庫)は,イアン・カーティスの話でも何でもなく,戦中・戦後の自伝的小説。大槻ケンヂ曰く,"自伝的小説"にはずれなしというが,さて。



01月06日(火) 公式  Status Weather晴れ

 何が公式か判らないけれど,公式には,完成した東京タワーに初めて昇ったのは都庁から検査のためやってきた係官だという。まったく自ら望んでそのような役回りが巡ってきたわけでもないだろうに。



01月11日(日) 帰還  Status Weather晴れ

 数日前にひいた風邪を振り返したためか,ただ単に気温が下がり過ぎのためなのか見当がつかなかった。ひといきれが充満するフロアをぐるりと眺めながら4階から2階まで降りたあたりで,脚がだるくなった。1階に辿り着き,連れが破格の安さで賑わう店を物色している間,電話をかけに戸外へ出た。
 戻ってきてもだるさはおさまらない。おまけに頭痛までやってきた。病みあけというのに昼間から蕎麦屋でビールと焼酎を煽ったせいだろうか。喫茶店でひとやすみしようと促し,席についたときは絶不調の真っ只中にあった。
 頼んだコーヒーをふた口含むと胃の奥が痙攣を起こしたような気がした。顳?の奥を押さえようにも,痛みが居坐るそこまで届きはしない。話し半分に席をはずすと伝えてドラッグストアへ駆け込んだ。薬を手に入れ戻ると2錠を水で飲み干した。
 連れが注文したチーズケーキを一口噛みしめたあたりで,それ以上,あたりまえに話を続けられる自信がまったく失せてしまった。頭痛と嘔気,脚のだるさはひどくなるばかりだ。「10分経ったら起こしてくれ」と言って,そのままテーブルにうつ伏せてしまった。

 体調は持ち直す気配がなかった,まったく。結局,10分を待たず,起き上がると事情を説明し,連れが帰る駅の方角を伝え,そこで別れた。
 トイレへ駆け込み,途端,胃がひっくりかえった。いったい,何年振りだろう。家まで10数分,タクシーの後部座席でそんなことを考えていた。



01月12日(月) Blue monday 2  Status Weather晴れ

 「彼(弓山)は私たちの仲間ではないのでよく知られてはいなかったが,おとなしい不良少年だった。崎山などが日本手拭いを腰にぶらさげてのし歩くあとをちょっとはなれてめだたずについてゆくという風だった。自分では悪いことはできないけれど,他人のわるさの尻馬に乗って見物したり,拍手したりするのが好きだった。本は読まず,運動神経は鋭く,おしゃれで,映画が好きだった。」
   開高健『青い日曜日』p.120,文春文庫

 あげく,「姿三四郎」を見にいくといって駆けつけた駅で空襲に遭い,「その日の夕方,そしてその後ずっと,弓山は家にもどらなかった」。



01月16日(金) 選曲  Status Weather晴れ

 携帯電話を持っていない中国人に出会う確率はどれくらいなのだろう。食事を終えて勘定をしながら店主と中国語で話している若い女性は,もちろん片手に携帯電話を握っていた。
 彼女が店を出ると,その中華料理店に客は私だけになった。昼間,食事に出かけたときも,ときどき夕飯をしに入ったときも,私以外に客が誰もいないことなどなかった。ビールと餃子,中華丼を頼み,文庫本を読みながら時間をつぶしていた。
 貧弱なスピーカーから流れてきたのは"Every Bless You Take"だった。そのときは気にならなかったものの,続いて"そして僕は途方に暮れる"がかかると途端,選曲センスが気になった。さて次は。
 "Shout to the Top"の出だしが鳴ったとき,思わず「うまい」と叫びそうになった。
 しかしなぜ,中華料理店で,ベースラインやアレンジの共通点を面白がらなければならないのだろう。ポール・ウェラーのシャウトよりも,ミック・タルボットのピアノが,中国語と,中華鍋の音と競い合っていた。

 店主の連れ合いが携帯電話に向かって早口の中国語で叫ぶ声をやり過ごしながら,食事を終えた。勘定を済ませるとき,
 「めずらしく込んでいないですね」
 厨房から出てきたベトナム人に声をかけると,
「さっきまでいたんですけどね。いつもありがとう」
 岸田秀に似た顔つきのビルマ料理店店主を思い出した。



01月18日(日) 偽装  Status Weather晴れ

 「偽装したいんですけどね」
 出版社の営業部で仕事をする知人はそう溜息をつく。
 「いったい,出版社で何を偽装すりゃいいでしょう」

  Exactly.



01月19日(月)  努力  Status Weather晴れ

 年末のこと。
 池袋の沖縄料理店で昌己,久米君とバンドの将来について貴重な打ち合わせをした。たとえ30年契約でメンバーは増えつつあるといえ,コンスタントに活動をしていないわれらがCola-Lについて,久米君は危機感をもっているようだ。
 「こういう曲どうでしょうか」
 即座にアイディアが2つ,3つ出てくるのは何にも増して頼もしい。
 「ルックスがネックかな」
 「私の知り合いに香里奈に似た子がいるんですけど」
 「えっ! 香里奈って」
 「誰だよ」私は話を遮った。誰だかまったく知らなかったのだ。
 「話つけましょうか」
 「だったら,俺,がんばって太るよ」
 「不細工にならないと緩急がつかないものな」
 このあたりの感覚にはすぐ反応できるのが,われながら情けない。
 「何か話が違うほうに行っていませんか」久米君が訝るのもしかたない。それからしばらく私と昌己は,いかに不細工になる努力を惜しまないか,久米君に向かってアピールし続けたのだ。
 「もう一人,ルックスはいい知り合いはいるんです。そちらのほうが話,つけやすいかも」
 もう一人がLady Ice-Coffeeさんだ。

 Lady Ice-Coffeeさんがバンドに加わったのは,そんなわれわれの努力が実を結んだ結果だった。



01月25日(日) fire  Status Weather晴れ

 北口で待ち合わせたからといって,すべてが酷い具合に陥りこんでいくわけではあるまい。込み入った店内に入り,空席待ちのカップルを後目に伝えた予約は,その北口でわずか10分前に公衆電話からかけたもの。携帯電話をもっていなくとも,世の中なんとかまわっていくものだ。
 コストパフォーマンスのよい料理を食べると,途端,日頃の鬱屈が彼方へと乾いていく。数年前,銀座に呼ばれた食べた火鍋の数倍,北口で待ち合わせてたべたそれは旨かった。



01月27日(火) 100円  Status Weather晴れ

 入る気にはなれない爬虫類専門店を越えたところに,その古本屋のチェーン店はある。仕事でその町へと出かけた帰り,年に数回入るのだけれど,まあ,バーコードがついていないというだけで,みすず書房のロルカ詩集が100円棚にぽつりと置かれているのはどうしたことだろう。もちろん手に入れた。開高健の『最後の晩餐』も100円だ。同じ棚で買った桜庭一樹の『少女には向かない職業』を読んだのだけれど,石平を読んだときの感じとよく似ていた。



01月30日(金) Another Game  Status Weather晴れ

 学校を卒業して2か月ほどのインターバルの後,放送・広告業界の周辺をうろつく仕事に就いた。
 今も変わらず,他人の話を聞いてその内容を整理する能力は持ち合わせておらず,あれで給料を得ていたのは今にして思うと詐欺のような話だか,その業界にでは20代はおろか40代でさえ「うちの若いの」と紹介されていたから,みそっかす以下の扱いは承知で使われていたのだろう。
 亡くなった上司の担当を引き継いで,某協会に出入りしていたころ。当時の専務理事は,恐ろしく穏やかな対応で私を迎えてくれたが,ときどき値踏みするような眼差しで射られたことが何度かある。
 「あの人はいろんな人と渡り合ってきたからな」
 「なんだかこっちのこと見透かされている感じがするんです」
 「それは,あたりまえだろう。何代にわたって会長に仕え,あるときは更迭に力を貸したりもした人だぞ」
 更迭? (続きます)



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