2009年2月

02月01日(日) Another Game 2  Status Weather晴れ

 「この前の更迭の話しですけれど」
 有楽町のガード下で飲み明かし,業者の事務所の近くで始発を待ちながら安酒を流し込んでいたときのことだったと思う。
 「何かあったんですか」
 やけに鋭い目つきが返ってきた。当時,上司は某オピニオン誌のアンカーを請け負っており,そのバイトの合間に会社の仕事をしているような案配だった。ときどき,会社にいわくありげな電話がかかってくることがあり,そんなとき,同じような目つきをしていたことは覚えている。
 「どうせ忘れるだろうから教えてやるよ」

 その協会の役職には大手企業のトップが名を連ねており,会長は持ち回りだった。数年前,某調味料会社社長が会長に就任したときのことだ。当時,協会と放送会社との間の懸案が,海外の機械を導入することで解決しそうな状況になってきた。会長は,その実験を協会としてではなく,自らの会社を通して極秘裏に行なった。今や眉唾ものといわれているが,当時は信憑性が高いとされていたサブリミナル効果を盛り込んだ上で。
 盛り込んだメッセージが不味かったのかどうかは定かでない。そのことが会員会社に漏洩し,結果,当時の会長は任期半ばで退任することになった。
 「その万事を仕切って,更迭のために動いたのが専務理事だよ」
 
 この週末,サイトにアップしてある「Another Game」を読み返した。続きを書くこともないだろうと思いながら甦ってきたのは上司に聞いたこの件だった。(続きます)



02月05日(木) Another Game 3  Status Weather晴れ

 昭和の終わりから平成は始まって数年の間,人生の割合からすると少なからず相応の位置を占めた愉しみがまったくなくなった。King Crimsonは再度,活動停止しただけでなく,メディアからRobert Frippの名を聞くことがない数年が続いた。John Lennonであれば,たとえそれが牛を手に入れたことであってもニュースになったのに,我らがギタリストはその程度のことではどこにも波風がたちはしない。矢作俊彦は新刊を出さなくなり,当時,あるファンをして「矢作俊彦がマッチの裏になぐり書きしたメモでさえ読みたかった」といわしめた文体までもが影を潜めた。最後の砦であったP-MODELが凍結したことで正直,私は焦りまくったのだ。

 スタジオに入り,小説のプロットをつくり始めたのは,結局,そんな理由からだった。

 「Another Game」のもう一つの軸に移民問題を絡めようと考えた理由は思い出せない。結局,書き上げた箇所まででは,その痕跡まで辿り着くことはできなかった。ただ,「ミステリ・マガジン」連載時の「真夜半へもう一歩」(以前にも記したように,どう考えてもこれは「真夜中へもう一歩」のタイトルだったのを,連載第一回で誤植したにちがいないと思うのだけれど)と「リンゴォ・キッドの休日」から借景して,身近の登場人物で物語を動かし始めた。
 登場人物の一人が精神に異常をきたした際のやりとりは辻潤と辻まことからもってきたり,まあ,いろいろ元ネタはあったのだけれど。



02月08日(日) 移動祝祭日  Status Weather晴れ

 店頭で高見浩の訳本を目にすると,なぜか買う気が失せるのはなぜだろう。以前,同時代ライブラリーで復刊された版を,現代文庫に移せばよいだけのものなのに。



02月10日(火) Fall at your feet  Status Weather晴れ

 平成がはじまって数年に買い求めたCDの曲を,気がつくと聞いていることが多い。Cocteau Twinsの"Cherry-Coloured Funk",The Band of Holy Joyの"Real Beauty Passed Through",The Beautiful Southの"I've Come for My Reward",Crowded Houseの"Fall at Your Feet"あたりがiTunesから聞こえてくると,無性にスタジオに入りたくなってくるのだ。

 昭和の終わり数年,リアルタイムでリリースされたCDにまったく関心がなくなった時期があるのだけれど,その後,反動のように私はCDを買い求めた。



02月11日(水) Cheese and Onions  Status Weather晴れ

 GRAND CENTRAL OYSTER BARで遅めの昼食をとったときのこと。図書館でメールをチェックするためにノートパソコンを携えてきたはよいものの,ラップトップで立ち上げていると給仕がやけにフレンドリーに尋ねてくる。
 「Macのラップトップか?」
 「いや,これは日本のメーカーの製品で……」
 今も使っているパールホワイトのPrius AirだったのでMacと間違えられるのは仕方あるまい。
 このパソコン,貧弱なスペックのままのもので,フリーズすることしばしばだった。
 ホテルに戻るのは面倒だったので,そのまま美術館へと出かけたのだけれど,いきなり入口で止められた。美術館内にパソコンをもって入るのはダメなのだそうだ。ところが,OYSTER BARで旨くシャットダウンしなかったうえ,そのままフリーズしっぱなしだったようで,いくら再起動をかけてもうんともすんとも反応しない。シャットダウンしていないパソコンを預かるわけにもいかないらしく(そりゃそうだろう),結局,入館間際でやたらと足止めをくった。

 で,唐突だけれど"Cheese and Onions"。
 ここではGalaxie500のカバーバージョンのほう。ベスト盤はまだしも,"On Fire"だけはいつ聞いても,その当時の薄っぺらで刹那的な気分が変わらず甦ってくる。



02月14日(土) 版面  Status Weather晴れ

 レコードと活版印刷時代に出会った諸々の体験があるので,パッケージに思い入れを持たないかと問われれば,持つと答えるに違いない。それなのに,本の装丁どころか版面に興味をもたなくなっ久しい。活版印刷された本の味わいがどうも忘れられない。
 『マイク・ハマーへ伝言』をいまだ,年に数度捲るのだけれど,手に取る回数は光文社文庫,角川文庫版に比べ,光文社のハードカバーのほうが圧倒的に多い。視覚の記憶が甦る。
 本が電算写植,DTPでつくられるようになって失せたのは,この版面に対する視覚の記憶ではないかと,ときどき思う。



02月17日(火) This is not America  Status Weather晴れ

 世のなかにオーダーしたことのないものは数多あるものの,なかでもアメリカン・コーヒーなるものを,私は飲んだこともなければ頼んだこともないことに最近気づいた。
 朝,会社へ出かけに立ち寄るコーヒーショップでテイクアウトのブレンドを頼んで2日,続けて次に並んでいたサラリーマンがアメリカン・コーヒーを注文したのを聞き,ふと思い立ったのだ。
 どんな理由があって,アメリカン・コーヒーを飲むのだろう。実際,よく判らないのだ。



02月18日(水) KEY  Status Weather晴れ

 ところで裕一,「夢見る約束」と「KEY」が似ていることに昨日気づいたのだけれど,これは四半世紀前から有名な話だったのだろうか。



02月20日(金) 影響  Status Weather晴れ

 「それと同時に〇四年はAiの医学書を書いていました。ただ本が出来上がった瞬間『これじゃダメだ』と確信したんです。結局,広く多くの人が共感してくれなければ世の中は動かない。
 そんな時に読んだのが矢作俊彦さんの『ロング・グッドバイ』です。その中に『警察に運び込まれた遺体はCT検査もされず体表しかみ見ないんだから,死因なんかわかるわけない』という一文があったんです。それを読んで『Aiのことをいくら語っても,こういう形で読者に覚えられたら一般常識として食い込めないな』と思ったんですね」
   海堂尊ロングインタビュー,野性時代,2009年1月号,p.18

 「文學界」の連載「常夏の豚」は面白いし,その他の掲載原稿も1か月では読み切れないものの,ときどき遡って読むと意外と面白いものが載っているので,刊行数日以内には書店で買い求めている。一方,「野性時代」はというと,1か月では読み切れないどころか,何年経っても読みはしない原稿と思しきものがあまりにも多いので,「チャイナマンズ・チャンス」連載数号から,書店で眺めはするものの買いはしていない。数か月遅れで古本屋で見つければ買うのだけれど。
 そんなわけで,最近,古書店で2009年1月号を見つけ手に入れたところ,こんな一文があった。

 「クイック・ジャパン」のインタビューで高見広春が矢作俊彦に言及していたり,奥田英朗が『マイク・ハマーへ伝言』についてコメントしているのを見た記憶もある。
 ただ,どうしたことか,これらの作家が書いた小説にあまり興味が湧かない。



02月25日(水) 土地勘  Status Weather晴れ

 数年間,東麻布に通ったので,浜松町から虎ノ門,東麻布から六本木,広尾あたりまでの土地勘がないわけではない。矢作俊彦の小説にこのあたりの描写が特徴的に出るのは『ららら科學の子』を通過して「引擎 engine」あたりからだけれど,連載中の「チャイナマンズ・チャンス」にも見知った通りが描写される。
 今は無くなってしまったアフリカ人がシェフのカレー店だとか,卑近な例だと"ハートランド"のバァだとか,街の深みに潜み込まずともいわゆる無国籍な空気を感じることができるのは悪くない。新宿から新大久保界隈,中野から吉祥寺にかけてなど,10代の終わりから行き来した街並が変わる様子に追いついていけなくなったからだろうか。それらの場所からは,少しずつ足が遠のいている。



02月28日(土) 花粉は真空を嫌う  Status Weather晴れ

 自分は花粉症にならないとたかをくくっていたのは昨年の冬までのこと。どうも調子が芳しくないと職場近くの診療所で検査の結果,間違いなく花粉症であることが判明した。それでも,昨年は咳き込みが非道いくらいで,飲み薬で大過なく(?)過ぎた。
 それが今年は2月に入ったある日の朝。これまで経験したことのないほどの目のかゆみで起きてしまった。昨年と同じく,飲み薬と目薬,辛いようならば1クール6回の注射のあると説明を受け,まずは飲み薬で様子をみたものの体調は優れない。仕方なく同じ週に再び診療所を訪れ,注射を打ってもらうことにした。
 まだ花粉症になって2年目だからだろうか。どうも自分の身に起きていることとは認識できずにいる。



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