2009年5月

05月01日(金) モラリスト5  Status Weather晴れ

 その仕事が終わったのは,予定より半年遅れてのことだった。ミーティングスペースで「点数が増えたので,かなりの額になってしまったのですが,大丈夫かな」と尋ねられた。私はまだ20代でバジェット管理など眼中になかったので,「請求していただければ大丈夫ですよ」と簡単に言ったものの,思えば予算がどれくらい計上されているかも知らされていなかったのだから,なるようになったのだろう。
 青梅街道を連れ立って大ガードまで歩きながら,あれこれ話した。娘さんと息子さんがいて,娘さんは芸能界デビューしたということや,息子さんがサッカーに熱中していること,奥さんのことも何度も聞いたように思う。
 彼は神田の生まれで,私などはまったく知らない日々のしきたりを原則にのっとって,朝起きてから床につくまで,それはそれはいろいろな決まり事があるのだった。
 あるとき,ガードを越えて歌舞伎町が左手に見えてあたりでの別れ際,「娘の写真集ができあがったんです」と紙袋を渡された。何と答えたものか記憶にない。アパートに帰り,なんとなく袋の中身をみることができないまま,数か月が過ぎた。



05月03日(日) シュー  Status Weather晴れ

 徹と昌己は多摩っ子だったので,それはそれはRCサクセションのファンだった。2人して「シューシュー」と連呼していたのを記憶している。

 こんな日に書くことではないけれど,これほどマスコミに「ロック」という言葉が氾濫しているのに,テレビで用いられるといまだ非道く不細工なのは,もしかして救いなのだろうか。
 なのに,ある時期,繰り返し見たテレビドラマ「野ブタを。プロデュース」での清志郎の役柄が忘れられない。



05月08日(金) 休載  Status Weather晴れ

 「昔,殺人許可証を持つ大阪の丁稚が深夜,箱根の温泉街で暗殺に失敗するという小説を書いた作家がいた。赤外線暗視ゴーグルの死やが露天風呂の熱で溶明してしまったためだった。これは,あるかもしれない。」
   矢作俊彦「チャイナマンズ・チャンス」第15回,野性時代,2009年5月号.

 二村永爾が定吉セブンシリーズを読んでいたとは。
 ところで,あらすじに最初のころは,「二村」の名が出ていたのに,第7回くらいから「私」に変わっている(途中数回未入手)。それに伴い「眠れる森のスパイ」に繋げてしまったかのような展開に。つまりはハードボイルドがスパイ小説に化けたということだけれど。
 「文學界」6月号の「常夏の豚」が休載。2年以上,1回も落としていないのだから,それくらいしてもらわないと。

 ところで,2本の連載にクリス・アッカーマン氏は出っぱなし。忙しいこと。



05月09日(土) P.O.N  Status Weather晴れ

 「あのう,半年ぐらい前に弦楽器だけの〈コブラ〉をやった菊地さんですよねえ?」「うん,そうそう。そうですけど」「あの時Uさんに誘われていたんですけど,私,仕事が入っていて……すっごく参加したかったんです」「え? 楽器やってんの?」「ヴァイオリンです」「そうかー。じゃあ,あれ? やっぱハカセ太郎とかああいうのに抱かれたいと思ってる人達?(笑)すげー」「いやだあ(笑)違うんです私ティポグラフィカのファンで」「お疲れさま。またいつかね」
   菊地成孔『スペインの宇宙食』p.28,小学館文庫,2009.

 平成のはじめ頃のこと。吉祥寺や高円寺でジョン・ゾーンのライブがあると昌己や徹と連れ立ってよく出かけた。山塚EYEがVOXでリズム隊はRUINS。皆,楽譜を凄い勢いで捲りながらサクサクと曲が進んでいくのが気持ちよかった。宍戸錠の写真が使われたアルバム「スピレーン」(ジョン・ゾーンが語るハードボイルドの定義なんてまるで矢作俊彦だ)はさすがにライブでは演奏されなかったと思う(とリンクを含め,同じこと一度記した記憶が……)。
 同じ頃,移転したばかりの新宿ピットインへ,ティポグラフィカのライブを観にいった。競演がP.O.Nだったことは覚えている。鬼怒無月のギターを音大出じゃなくて専門学校っぽいと和之が断言したのはどうした経緯だったろう。高良久美子のパーカッションがやたら格好よかったなど,曲よりも映像の断片が甦る。

 で,たぶんその頃,菊地成孔に声をかけていたら,そんなふうに返されても仕方ない。



05月10日(日) 現在形  Status Weather晴れ

 で,円城塔の「四角い円」(文學界2009年5月号)は,最後まで語尾が現在形で,フランス文学っぽく響くのはいったいどうした記憶のせいだろう。

 モラリストの話はまだまだ続けます。



05月11日(月) モラリスト6  Status Weather晴れ

 私が家庭をもつことになり,彼の都合を聞き,家内とともに出かけた先を記憶していない。レストランで50人にも満たない知人とともに食事会をすることは決まっていて,私の知人としてスピーチをお願いしたのだ。彼は心良く引き受けてくれた。
 当日。身長180cmを越す彼の姿は家内の友人にとって話題の的となった。
 「あの人,日本人よね」
 いきなり,出自を国籍から問われるルックスを私はときどきうらやましく思った。
 お願いしたスピーチはいつ終わるか判らない自己紹介から始まった。初対面の多くの人に,まず自分の人となりを説明せずにはスピーチを始められない。やはり物事には段取りが必要なのだ。ただ,彼の段取りは少し長過ぎた。手にした巻物に原稿が書いてあるようで,その残りの量を見ながら,少し落胆してしまったことを記さねばなるまい。
 10分以上にわたるスピーチを終え,巻物を揃えて私のほうにやってきて一言。
 「おめでとう」

 このときにいただいた巻物は今も寝室の引出しのなかに眠っている。



05月17日(日) ぼく  Status Weather晴れ

 裕一は昔から矢野顕子ファンだった。当時,何度も曲を聞かせてもらったけれど,結局,私が聞き始めたのは30近くになってからのことだ。それは,黒人音楽全般を違和感なく聞けるようになった頃で,それまで好きだったバンドの曲にあまり関心がなくなっていったのも同じ頃だった。
 ベスト盤が出たので買い求め,その1曲目に入っていたのが「ひとつだけ」だ。聞くたびにどこかにひっかかって,それがなぜなのかずっと判らなかった。
 忌野清志郎とのコラボレーションを聞いて,なるほど,「私」が「ぼく」に変わっただけで,歌詞が暴力的に身を包み込む。




05月20日(水) もう1曲  Status Weather晴れ

 週末になると徹のアパートに出かけ,夜明けまでだらだらと過ごしていた頃。この曲が入ったアルバムをよく聞かされた。ピンとこなかった多くのことを,数年後,十数年後,ふと気に入ってしまう。いい曲だなと思う。




05月25日(月) 確信犯?  Status Weather晴れ

 ミステリ・マガジン7月号「響きと怒り」(何とコーナータイトル変わっていないんだ!)に「犬なら普通のこと」新連載に触れた読者投稿が掲載されている。
 「矢作俊彦さんは『新・七人の刑事」のシナリオ(「サマーガール」昭和五十三年八月二十五日放送)をお書きのようなので,シナリオが残っていれば,是非とも司城志朗さんに小説にしてもらって」って,この回の原作は「リンゴォ・キッドの休日」だったような記憶があるのだけれど。



05月27日(水) 犬なら普通のこと  Status Weather晴れ

 沖縄が舞台のこの小説を,横浜が舞台であったシナリオに思いを馳せながら読み進めるのは,とても面白い。



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