2009年8月

07月03日(金) 1983  Status Weather晴れ

 「taxi」で坪内某が岡林信康と対談していた。また,フォークの話かと予想しながら立ち読みしていると,中心はアルバム「ストーム」のことだった。今どき,岡林信康の「ストーム」が恐ろしくすばらしいアルバムだったといって,一体どれくらいの訴求力があるのか定かではないが,まずはうれしかった。

 1983年の3月。FM東京で加藤和彦が登場する公開録音番組があった。出演は中山ラビと大空はるみ,梓みちよの3名。バックを務めたのは鈴木慶一抜きのムーンライダースに美尾洋乃福原まりもいたのではないだろうか。加藤和彦は「ロスチャイルド婦人のスキャンダル」と「うたかたのオペラ」あたりを歌って,最後は「リリーマルレーン」を皆で歌って締めというようなコンサートだった。

 当時,北関東に島流しに逢って数年,小岩に下宿していた中学時代の同級生の家に数日間,転がり込んだ。佐賀君の話題は『かっこいいスキヤキ」と「ゲルニカ」だった。「あとは寝るだけ」が面白いことを少しだけ話した記憶もあるけれど,数年会わないだけで,松本零士の漫画が好きだった佐賀君のイメージは様変わりしていた。
(つづきます)



07月04日(土) 1983 その2   Status Weather晴れ

 FM番組の公開録音だというのに,隠し録りのためウォークマンを忍ばせていった理由は覚えていない。120分テープとともにバッグのなかに隠したものの,入口でチェックされることはなかった。
 最初に登場したのは中山ラビ。一曲目は「スローモーション」。「MUZAN」に収録された作詞作曲とも中山ラビ自身の曲の,この日のアレンジが恐ろしく格好よい。スネアの抜け方とゴリゴリしたベースが癖になる。
 というこを記していくと切りがないので,中山ラビの「MUZAN」と「SUKI」の2枚を比べると,いまだ新鮮なのは「MUZAN」のほうで,これは加藤和彦のアレンジによるところが大きいと思うのだ(「SUKI」のアレンジは清水信之)。
 で遡ること2年前につくられた,岡林信康のアルバム「ストーム」の話に続きます。



07月05日(日) 1983 その3  Status Weather晴れ

 放送局というのは営業免許ではなく施設に対する免許を受けるもので,このあたりにつけ込み,バブルの頃,非道い目に逢った放送局がある。1980年当時,岡林信康は週2回もしくは隔週で30分番組を受けていた。他の3回もしくは隔週は自切俳人と名乗っていた頃の北山修が担当していて,「ストーム」が発表されたとき,自切俳人の回に岡林信康がゲストとして登場した(と,このラジオ局はABCで某局でないことに気づく)。
 岡林は「ダンスマン」の加藤和彦のアレンジをCをAmに(だったろうか)にアレンジする(これだとそれほど変じゃないから,もっと違うことを言ったのだろう)不思議な感覚と嘆息まじりに語った。

 「ストーム」は1980年に発表された。プロデュースは加藤和彦で,バックを鈴木慶一抜きのムーンライダーズが務めている。B面1曲目に収められた「ミス・ベンリー」(だったと思う)は,早すぎるアズテック・カメラのようなアレンジで,スネアの抜け具合や,ギターのリフなど,数年後,ロディー・フレームの曲を聞いたとき,「ストーム」みたいだと思った記憶がある。タイトル曲「ストーム」は,ゆっくりとしたテンポでリリカルに歌われていく内容は,後に平沢進が展開していったテーマに通じるもの。「スケアリーモンスターズ」のデヴィッド・ボウイに似た感触の曲もある。
 で,曲の出来がよいから,クオリティが高くなったことは重々承知の上,この頃の加藤和彦はやけにロックっぽかったものだと今更ながら思う。

 昌己とときどき話していて意見が一致するのは,私たちの聞いていたロックがてっぺんを打ったのは1983年だということ。1984年にそれは劇的に変化を遂げる。



07月10日(金) 加齢  Status Weather晴れ

 夜遅くまであれこれ話した内容が記憶に自然とは残らない。



07月13日(月) ミ・スクージ  Status Weather晴れ

 夜10時過ぎ,ローマの空港に着き,換金するあたりまでは英語で事足りた。白タクを断るのもジェスチャーで済んだ。だから,はじめてイタリア語を使ったのは,地下鉄に潜り込んだものの,どちらのホームがテルミネ方向へ行くのか判らず,向かいのホームにいた男に尋ねたときだと思う。
 幸い,テルミネに着いたものの,ミラノの弟のところへ夜行列車で行こうという目論みは,そんな電車が存在しないという事実の前にあっけなく頓挫した。
 それにしてもよく伝わったものだ。バールでミルクティーを頼んだところ,ホットミルクを出された程度の発音だったのに。



07月14日(火) アマデウス  Status Weather晴れ

 アマデウスホテルは,サンタルチア駅からゲットーへ向かう手前にあった。カンナレージョ運河まで荷物を運んでもらい,そこから船で空港へ向かうという案配だ。朝早くの便のため,朝食を特別につくったりはしない。だから私たちは小体な籠に入った瓶のオレンジジュースとパン,チーズに果物を携えて,船に乗り込んだ。



07月15日(水) 23時  Status Weather晴れ

 さすがに夜中まで話し込むことはまったくなくなったものの,気が付けば終電間際の時間。平日のそんなやりとりは楽しい。



07月18日(土) Gone to Earth  Status Weather晴れ

 このところ,本を読んだり掃除をしたりするときに欠かせないのがデヴィッド・シルビアンの「Gone to Earth」。リリースされた当時,“Taking the Veil”の12インチを手に入れたのは,当時,キング・クリムゾンの解散後,活動が思いっきり地味になっていたロバート・フリップのギターを聞くためだったと思う。スティーブ・ジャンセンのドラムとのコンビネーションがやたら嵌っていたと感じた記憶がある。
 ただ,アルバムは2枚組だったこともあり手に入れず,その後,数曲割愛されてCD1枚に収められたものを中古で買ったのだと思う。
 打ち込みで曲をつくっていた頃,このアルバムのリズムの音色に感化されたことも忘れられない。
 『ロング・グッドバイ』を読み返しながら,繰り返し聞いた。



07月20日(月) 衝突  Status Weather晴れ

 中学生の頃,自転車に乗ったまま目を瞑って,電信柱にぶつかったことはある。ハンドルの上に本を乗せながら学校まで読んで通ったことも少なくない。それでも,少し前まで,自転車に乗っていて他人とぶつかった記憶はなかった。
 ところが最近のこと。本屋や古本屋を巡るために自転車で出かけると,ときどき人に接触することがあるのだ。週末になると学生が集まる盛り場が近いからかもしれない。それでも,ベルを鳴らしてもペダルを漕がずに道路に着けた足でそろそろと進んでいても,道を思い切り横一列に封鎖する隊列は進路をつくる気配がない。いきおい,少し空いたあたりをめがけ自転車の前輪をねじ込む。それでも,奴らは気づかない。歩いているのは,とりあえず前に進んでいるからまだ救いがある。道に溜まってしまい動くことを忘れてしまったかのように障害物と化する奴や,こちらに向かってくるのに手元の携帯にしか視線がいかないのか,除けようともせず,思い切りぶつかってこようとする奴。恐ろしいことに,自転車に乗っていると,そうした輩はまったくあたりまえだ。ぶつかっても文句ひとついうわけでない。
 まあ,それでいいのならば,とりあえずぶつけて道をつくるしかないのだけれど。



07月22日(水) Music for   Status Weather晴れ

 だからといって,iPodに"Gone to Earth"を入れて,ジムに行くのは間違いだ。根本的に運動のBGMとしては,まったく機能しない。
 かといって,何ならよいのかというと途方に暮れてしまうのだけど。



07月24日(金) ジャスミン  Status Weather晴れ

 ベランダに載せたプランターからジャスミンのプランターを取り上げる。午後10時過ぎ。白い花を摘むと,そのタイ料理屋のおばさんから渡しされたひとつまみを手のひらに乗せる。さらにもうひとつまみ。
 家に帰り,小皿に盛った水道水に浸すとジャスミンの香りがあたりに漂う。その間,2つの場所は繋がるのだろうか。



07月27日(月) 外人術  Status Weather晴れ

 『外人術』『陽気な黙示録』『でも私は幽霊が怖い』『ブーイングの作法』,そして『検察側の論告』。今も本棚の片隅に『天使』や『バルタザールの遍歴』『戦争の法』あたりとともに鎮座している単行本だ。
 バルタザールは刊行時に読んで,『戦争の法』がなんだか「あ・じゃ・ぱん』みたいというか,今にして思うと4,5年前流行した戦争の小説は,これをヒントにしたのかも知れないけれど,とにかく『戦争の法』を読んで,しばらく佐藤亜紀の本を手にすることがなくなって数年。『陽気な黙示録』を手にしたきっかけは覚えていない。少なくとも1996年,倉多江美のジョゼフ・フーシェをモデルにした長編漫画に言及する小説家は佐藤亜紀のほかにはいなかった。もしかしたら連載時を遡っても,あの漫画が取り上げられたことはどれくらいあったのだろう。
 エッセイがとても面白く,それは倉多江美が「1億円あったら何に使いますか」との問いに,「知りたかったら,1億円持たせてみませんか」と答えたのに共通する韜晦癖を感じた。(つづきます)



07月30日(木) 外人術 2  Status Weather晴れ

 で,ちくま文庫でまとめられた『外人術』を手に入れ,このところ読んでいたのだ。弟の結婚式のために出かけたイタリアの某美術館で,イリーガルに入り込んだ方法と少し近いことが書かれてあって,よもや単行本のとき読んだこの箇所を参考にしたわけではないと思うのだけれど,その方法は見事に成功した。

 今はなき四谷ラウンドからエッセイ集を読むと,一度,矢作俊彦と佐藤亜紀が語る戦争,などという企画を実現しないだろうかと思いたくなる。



07月31日(金) Musig for 2  Status Weather晴れ

 iPod Shuffle に入れたのはP-MODELのアルバム「カルカドル」。気分は一息に1985年にタイムスリップしてしまうくらい,このアルバムを初めて聞いたときの空気は忘れられない。音が流れるたびに,いつも思い出せる記憶をもっているのは悪いことではない。
 ハイハットの裏打ち加減がいいのだ。後に田井中PART2になったとき,このあたりのレパートリーでやたらと苦労していた様子まで思い出す。

 そのままジムに行って,たらたらと自転車を漕いでいたところ,デヴィッド・シルヴィアンに比べ,遥かに嵌った。



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