2009年12月
12月01日(火) あ・じゃ・ぱん |
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文庫本になった『あ・じゃ・ぱんがとてもしっくりとくる。読みやすいし,ていねいにルビがふってあるのは好き嫌いの分かれるところかもしれないが。少し前に007シリーズの『カジノ・ロワイヤル』が出てきたのでペラペラ捲っていると,レモンピールを浮かべたマーティニなどというものが出てきた。 |
12月03日(木) Raspberry Dream |
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バスルームシンガーがそう囁いたのはもちろん仕事中のことだった。 「コムロテツヤの曲どう思う?」 「聴いたことがない」 「曲じゃなくて,歌詞なんだけど」 「読んだ記憶はない」 「ちょっといい感じなのよね」 ライトを浴びるとそこがステージに早変わりするような心性を抱え込んでいた彼女にとっては,そうだったのだろう。我々が心底嫌っていた"いいひとポップス""あのころポップス"に通じる何かを嗅ぎ取って,私はますます機嫌が悪くなった。 急な仕事などほとんどなかったので,しばらく記憶を辿るとレベッカのライブのことを思い出した。それらの出自のどこかにレベッカの歌詞があるのではないかと。 マドンナのカバーのような曲で注目されたその年の秋のことだ。三田にある大学の学祭でレベッカのライブを観たのだけれど,それがどのような経緯だったかは覚えていない。初期の少しドラマチックなブリティッシュロック風な曲がタイトなリズムで演奏され,そのバンドの名前が記憶に残った。 メジャーになっていく過程を眺めていると,何かと何かの線引きをしたくなってくる。 当時からベースラインはトンプスン・ツインズをはじめとする英国のバンドの引用(というかパクリ)だと昌己は嘆いていたし,ギターにしても,たとえば「ラズベリードリーム」の出だしのミュート気味してディレイをかけるあたりのアイディアはバウハウスっぽいといえなくもない。なのに,そうした演奏にヒリヒリした感じがせず,破天荒なボーカリストが刹那感をひとりで背負っている妙な感じに違和感をもった。 うまく書き表せないのだけれど,それなのに歌詞はわれらがバスルームシンガーをして,「いいのよね」と言わしめてしまう心性の大元の一つに違いない類いのもの。 どうにもおさまりが悪いのだ。 |
12月07日(月) フィルムノワール |
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今日の日記です。 「新潮」2010年1月号を買い求める。矢作俊彦の新連載「フィルムノワール/黒色影片」。1,2章は1985年以降に描かれた長編としては出色の出来栄え。単行本『真夜中にもう一歩』の手前(連載と比べて,この単行本あたりから文体が変化したと記憶している)のワンセンテンスの長さと比喩。2009年にこの文体で長編をスタートできることに正直,驚いた。「So Long」の第一回も嬉しかったものの,すでに「鰻屋で自分に奢る」(だったろうか)というような箇所に「すっかり所帯じみてしまった」と(矢作俊彦が嫌いなはずの)松田某に呟かれた気分がしたのも事実。 『ロング・グッドバイ』で気に入っている箇所のほとんどは1979年の「ヨコスカ調書」が出自だったので,これは二村永爾シリーズとして思えば,1979年4月号で頓挫した「ヨコスカ調書」以来の驚きだ。 ただ,実際の映画についての言説が会話に盛り込まれ,伝説の映画監督のフィルムがオークションに,というと,どうしても「眠れる森のスパイ」を思い出してしまうが,少なくとも山下公園での小峰課長との邂逅が,リュクサンブール公園にならなかったことだけでも期待をしてしまった。 ただ,続く章のバディもの風の進み方に,今後の展開がやや不安なのだけれど。 これじゃ「チャイナマンズ・チャンス」はゴロウ・フジカワの話になったということだろうか。 |
12月08日(火) フィルムノワール 2 |
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数回読み返したところ,3,4も文章の緊張感が持続していて,かなり面白くなりそう。「残渣」の「渣」のつくりが,「旦」でなく,きちんと「且」になっているあたりも。 |
12月09日(水) プリン体 |
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「プリン体って,体がプリンみたいにぷるぷるになっちゃうこというんでしょ」 娘がいう。 「えっ」 「プリン体よ」 「痩せ型とか,そんなのと一緒だと思っていたのか」 いやだな,プリン体になるのは。 |
12月11日(金) チャイナマンズ・チャンス |
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で,ゴロウ・フジカワものとして「チャイナマンズ・チャンス」を読み直していたところ,ここ2回あたりは,とてもいいなあと思った。ただ,この連載を単行本にまとめるとしたら,かなり時間かかるだろうな。 |
12月13日(日) 知識 |
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今日の日記です。 さっきまでテレビで加藤和彦の追悼番組が放送されていた。風呂からあがった娘の髪の毛にドライヤーをあてていると(そろそろ自分ですべきなのだが),「スモール・キャフェ」のPVと思しき映像が流れた。 「あ,わたし,この曲知ってる」 「パパ・ヘミングウェイ」くらいはと,出たときに紙ジャケ盤を手に入れていたものを,ときどき居間で流していたところ,最近になって「この曲,リズムが面白い」と言い出した。それをまだ覚えていたのだろう。「メモリーズ」も面白いといったはずだけど,「サン・サルヴァドール」や「アラウンド・ザ・ワールド」については何も言わなかった。 相変わらず昔の曲を聞いている。 |
12月15日(火) おまけと余分 |
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2009年は,何だかおまけと余分な年だったような気がする。 |
12月17日(木) 記憶 |
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「絹のシャツを着た女」と「あの素晴しい愛をもう一度」のシングル,どちらを先に手に入れたのかは覚えていない。でも「ソルティ・ドッグ」を買ってから「だいじょうぶマイ・フレンド」まで,シングルは出さなかったように思うのだけれど,「ルンバ・アメリカン」はシングルカットされたのだっただろうか。 1980年前後,すでに「ガーディニア」はレコード店では見つけることができず,かろうじて「それから先のことは」は,お茶の水で手に入れた筈。 かなり前から,本やCDは見つけたときに買っておかないと,再びいつ巡り会えるかわからないと言われているが,結局,ずっとそんなふうにしてレコードや本を手に入れてきたように思う。 |
12月21日(月) 波止場 |
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波止場など,もはや死語だとばかり思っていた。なのに横浜では現役なのだ,波止場という言葉は。仕事で出かけたのは波止場会館。赤レンガまでのぐるりの無惨な姿の一方で,まるで時間が止まったかのような景色が広がっていた。 |
12月25日(金) 新潮 |
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懐具合が暖かかったので,酔い覚ましに一駅歩いた途中の書店で「芸術新潮」を買った。矢作俊彦が選んだ一枚の写真は,トレンチコートに拳銃の煙を加えて,そのまま「フィルムノワール」の冒頭のカットに引用されている。 |
12月27日(日) 東京怪童 |
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『東京怪童』の第2巻を手に入れた。とてもよい案配に面白くなってきた。どうしても山野浩一の『花と機会とゲシタルト』を思い出す。 |
12月28日(月) 箱 |
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まだ洗濯洗剤の箱が十分に大きかったころのこと。 |
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