2005年7月

07月03日(日) 忙しい  Status Weather晴れのち雨

 何とも忙しい。五新くんの続きは,落ち着いてからにします。


07月05日(火) どこまで続く  Status Weather曇りのち雨

 まどろみ,ではなく,ぬかるみ。

 第一回
 鉄腕アトムと鉄人28号という2つの漫画が私を育てた。人間に悩むロボットと人間を悩ますロボットの物語。鉄人28号が生まれたのは1945年。鉄腕アトムが生まれるのは2003年。当時ついこの間であった過去は彼方へ遠のき,遥かな未来は明日に迫った。その今,この物語を始められることが夢のようだ。

 第二回
 アメリカが「こっち」につくのか「あっち」につくのか二者択一を世界に迫っています。これから受験を控えた良い子のみなさんは,こんなアホなカウボーイじみた設問には十分注意しましょう。世界には「そっち」も「どっちも」在るのですから。

 第三回
 昔,グリコのおまけに鉄人28号がついていて,鉄腕アトムはマーブルチョコだった。連載漫画がヒトコマずつ,包み紙になってついてくる風船ガムもあった。鉄人もいよいよ登場するので,いよいよこの雑誌も,我が連載のおまけと化すわけだね。

 第四回
 漫画や小説を締切に間に合わせて書くということは,生身の人間にはとても大変なことです。締切に間に合っている作家に,全国の編集者のみなさんは,それ以上のことを要求しないようにしましょう。

 第五回
 愈佳境。鉄人発進。破壊無尽。驚天動地。表演死命。(以下,採字する時間があるときに)

 第六回
 オランダからメールで近況を書いています。古城を改造したホテルなのでアクセスが悪く,東京を介してアクセスしています。こちらではニシンのサンドウィッチか中華ばかり食べて飽き飽きしています。ところで「アムステルダム」って,ダムでアムステル川をせき止めたから「アムステルダル(ママ)」だって知ってました?

 そして,著者近況は落合尚之氏のものだけになった。
 『鉄人』連載時の矢作俊彦氏の著者近況です。


07月09日(土) とりあえず  Status Weather曇りのち雨

 五新くんに関しては,とても温厚な人柄なのだけれど,ギャツビーの匂いがきついことと,ときどきグサリとキツいことをいうのがちょっと,という点について書いておきたかった。
 が,タイミングが悪かったようだ。

"China Boy" by Gus Lee
”Blood Orchid" by Charles Bowden

 以上2冊について情報を探しているのだけれど,てんで見つからない。
 よもや翻訳はされていないと思うのだが。


07月10日(日) 記憶  Status Weather曇りのち晴れ

 通勤途中のこと。あるマンションで大規模な清掃が行われていた。なにやら得体の知れない噴流を吹き付け,その飛沫は通りのほど半ばまで達している。
 途端,「この匂いだ」と私の記憶が甦った。
 それはここに書いた円柱に吹き付けられた化学物質と同じ匂いだ。マンション外壁の清掃に用いられるのだから,百歩譲っても身体によい物質ではないにちがいない。
 「匂いで記憶している」ことは確かなのに,匂い自体は常に取り出しというわけにはいかない。

 このところ聞いている17~18年前のライブ音源で甦るのは,ライブハウスの匂いではなくて,スモークの感触やら人に押される手応えのように,何だか妙に身体的な感覚なのだ。


07月12日(火) 焦る  Status Weather曇り

 「『四十になったらアセるだろうか』
 三十七歳の誕生日を祝うだいぶ年下のガールフレンドからの電話に叩き起こされた朝,彼はふいに,まったくふいにそう考えた。」
   矢作俊彦『仕事が俺を呼んでいる』(p.29,新潮社)

 電話のことはさておき,同じように考えたことが何度かある。25歳になったとき,30歳になったとき,そして。
 焦りは得体の知れないもので,それは「リセットなど出来はしない,自動律の不快だ」といってしまうと身も蓋もない。なんだか七面倒臭いものだった。さすがに最近,そんなことを考えなくなってきたのは,この年になって「自分と二重映しにして計測するほどの他人」なんていやしないからだろう。


07月16日(土) 間  Status Weather晴れ

 あちらとこちらを繋ぐ,隘路とはいえないありきたりの通路が,ときどきに動きをとめた何ものかによって狭窄する。それでも人の行き来はあるものだ。
 一瞬,譲り合い,その間が次の一歩につながる。
 初手からまわりを気になどしていそうにもない女性が,抱えたままの書類に身をもたれさせ,向こう側で止まる。私が一歩踏み出すべきかどうか躊躇っていると,それが当たり前であるかのように,彼女は先に一歩踏み出した。あまりに整然としていたので,思わず笑いそうになってしまった。
 


07月17日(日) 神様  Status Weather晴れ

 「シャブの神様の声を聞いたことのあるヤツは多い。(中略)きっと読者の中にもシャブの神様の声を聞いたことのある者がいるはずだ。シャブの神様の声を聞いた場合,一番大切なことはそのお告げに従ってはならないということだ」
   (石丸元章『DEEPS』(p.105,双葉文庫)

 たとえどんな無茶苦茶なことであっても,石丸元章が書く文章に惹かれてしまうのは,そこに登場する人物の多くがプロだからだ。シャブ中のプロ,詐欺師のプロ,反省のまったくない彼らの言動は揺るぎない。


07月18日(月) 中国女  Status Weather晴れ

 少し前の話です。

 着いて早々から,一行は,二次会となると新世界あたりへと向かう。東京であっても決して入ることはないであろうモダンな店が逡立するきらびやかな通りを横目に,私たちは,フケるタイミングをひたすら狙っていた。
 夜はこれからだ。とにかく大所帯だったので,全員を収容できるような店に辿り着く確率はほとんどないことだけは判った。仕切り役の日系アメリカ人は,私たちが逃亡するであろうことに感づいていたようだったが,目の前の一群を納める店と探し出すことに追われ,いきおい監視の目が届かなくなった。
 人の流れに紛れて,本屋と小物を並べた店へと逃れた。

 1月末の夜十時過ぎ。私たちはタクシーを拾うこともせず歩き出した。

 ホテルまで2km以上あることは予想していた。埃っぽい歩道を私たちは黙々と歩いた。こらえ性のない商店街をいくつか過ぎた頃,一人が口を開いた。
 「腹減りませんか?」
 「屋台じゃ寒いですよね」
 ともう一人。
 「温かいものないかな」
 果物を飴でまぶした,百歩譲っても酒を飲んだ後の夜半,口にするものから最も遠くにある食べ物はそこここで,この時間でも売っていた。私と同じ便で半日早くついた一人は,そ奴を昨日の夕方に試したばかりだった。甘いものには目がないようで,もちろん「旨いですよ」と付け添えて。
 
 結局,入ったのは,通りへと繋がる路地を無理矢理,店にしてしまったようなラーメン店だった。私たちは中国語を話せなかったので,通りに置かれた看板の漢字から推測して,とりあえず注文することだけは成功した。
 2人は温かな汁の入ったラーメンを手に入れたが,私の前にやってきたのは,油そばにパクチーと味のよいビーフジャーキーが乗ったような代物だった。どう考えても身体が暖まりそうにはなかった。この油が身体のなかで固まってしまったら,ただでさえ肉が貯まりつつある身にはキツいだろうな。不吉な食べ物を前に私は途方に暮れた。
 花紀京と小倉久寛を足して二で割ったような店主が,手招きする。店先の看板の下のほうを指差して,なんだか「注文しろ」と言っているようだ。言われるままに首を縦に振ると,しばらくして“ぬき”のような,つまり汁にパクチーとビーフジャーキーが入ったようなものが出て来た。
 「つけ麺にしろってことですかね。親切ですね」
 いや,油そばをつけ麺にしても旨くないと思うんだ。寒かったので,汁を啜って,そんな七面倒臭い話はしなかったけれど。
 中国女までの道程は険しい。(たぶん,続けます)


07月20日(水) 中国女 その2  Status Weather晴れ

 辿り着いたのは,コークスが煙る一角だ。
 「あれ,ここ昨日,夜飲んだ店の近くですよね」
 確かに,目の前のコーナーを右に曲がると,上海の竹下通り(のような場所)に通じる。ただ,あくまでも,ような場所なので,売っているのは牛や羊の串焼きや,亀のなんたらを入れたミルクティとか,海賊版のDVDとかで,飲む店は中華料理店ばかり。
 「昨日の店,行きましょうよ。ぼくの彼女,今日も出てるかな」
 一人は,そういいながら私たちを促す。昨日一度行ったきりで"ぼくの彼女"もないけど,その店の上級給仕婦(こんないいかたするのか知らない)に,私たち酔っぱらいの一団は,さんざん無理難題をふっかけた。
 あげく
 「あの人,誰かに似てませんか?」
 「あっ!!! 似てる似てるよ。キムヨンヒだ!!」
 酔っぱらい一同,どよめいた。

 で,私たちは,そのキムヨンヒ(に似た上級給仕婦)がいる店を目指した。一次会で飲んで食って,その後,油そばと“ぬき”を平らげた私には,この後,何を食って,飲めばいいのか見当がつかなかった。(たぶん,この後も続きます)


07月22日(金) 中国女 その3  Status Weather晴れ

 「いますか?」
 と言う間もなく,昨日の上級給仕婦(?)がやってきた。3人(そう,3人でフケてきたのだ)だと告げると,先立って円卓へ案内する。
 「覚えてますかね?」
 「あの顔は,判った,昨日の人たちだわ,って感じでしたよ」
 「そうかぁ。じゃあ,今日はもっとコミュニケーションしなくちゃ」
 2人とも,精神衛生上,これ以上はないというくらいすばらしいやりとりが続く。
 「で,中国語,話せるんですか?」
 「全然だめに決まってるじゃないですか。でも,ガイドブックあるから,漢字使って,筆談でいけると思うんだけどなあ」
 どこまでもポジティブな態度で切り返されると,彼の手助けをしてやりたくもなってくる。

 オーダー前から,彼の手元には手帳の無地のページが広げられている。ガイドブックの後半に,とってつけられたような“お手軽中国語マニュアル”を眺め始めた。私ともう一人で,適当にオーダーをしている間も,自分が語ろうとすることと,マニュアルの例文を繋げるべく,一心不乱にボールペンを動かす。
 「だんだん判ってきましたよ。これが主語で,述語がこれですよ。あれあれ,もう中国語しゃべれちゃうんじゃないかな。いいのかな」
 「いっそのこと,上海から会社まで通えばいいじゃない」
 「いいですよね。物価安いし,甘いものは旨いし。家賃,安そうじゃないですか」
 「ぜったい安いですよ。飛行機代差し引いても,通勤したほうが」
 「いくらなんでも,毎日上海から通勤してたら,金かかりますよ。支店ができればいいのにな」
 そんなことを話している間に,私たちが頼んだ食べ物が続々と運ばれてきた。豚肉のハムをケチャップとXO醤でからめた見るからに脂っこい皿や,唐揚げの酢豚みたいなものや,とにかく肉ばかり。麻婆茄子が箸休めになってしまうほど,高カロリー食のオンパレード。一次会で中華のコースを食べ,飲んで,さっきは油そばと“ぬき”を食べた筈なんだけど。

 上級給仕婦は,私たちのテーブルに皿を運んでくるたび,彼からの質問攻めにあっていた。
 「名前は?」「何時に仕事終わるの?」「メールアドレス持ってない?」「彼はいる?」
 素っ気ない態度だけれど,律儀に彼の手帳に漢字で返事を書いてくれる。傍目には,よっぱらい日本人が給仕に絡んでいるようにしか見られなかったに違いない。もちろん,ほとんどその通りなのだけど。
 テーブルに給仕しにいく途中,私たちのテーブルを一瞥しているような感じもする。
 「この手帳が気になってしかたないんじゃないですかね」
 「今度,何聞かれるのかしら,ってですか?」
 「あー,日本に帰りたくないなぁ」

 彼女の仕事が終わるのは午前4時半。出勤してくるのは,午後1時だという。
 「長いこと働いているんですよね。仕事終わるまで待って,飲みに誘いましょうか」
 「疲れているに決まってるじゃないですか。そんなことできませんよ」
 「そうだよね」
 と,3人とも黙ってしまった。

 私たちはしばらくして店を出た。午前1時半を回っていた。

 結局,一緒に行った2人は翌日も,散々飲んだ後,その店に行ったそうだ。


07月27日(水) 真夜中と真夜半  Status Weather晴れ

 矢作俊彦の『真夜中へもう一歩』(角川文庫)を手に入れ,少しずつ読み進めている。少しは手が入っているようだけれど,先に刊行された『リンゴォ・キッドの休日』のように気にならなかったのは,単行本を数回しか読んでいないので,細部までは記憶に残っていないからだろう。

 80年代のはじめになって,すでに連載終了から数年経ってはいたものの。「ミステリ・マガジン」に連載された「真夜半へもう一歩」は,何度も読み返した。当時から“真夜半”という響きを奇妙に感じていたことを覚えている。単行本『リンゴォ・キッドの休日』のカバー折り返しには『真夜中へもう一歩』となっていたと思う。当時から,連載第一回で「真夜中」を「真夜半」としてしまった誤植なのだろうと想像していて,それは今も変わらない。

 雑誌連載の記憶もほとんど失せて,今回,文庫本を読んでいると,単行本化にあたって大幅に加筆修正された箇所が,それほど気にならなくなっていた。主人公が登場人物によって使い分ける相対し方も,(やや違和感はあるけれど)唐突さはそれほど感じられなかった。

 文庫本化で残念だったのは,単子本に付された「記」が省略されていること。単行本では『複雑な彼女と単純な場所』『ライオンを夢見る』といったエッセイ・評論にしか後書きはないので,貴重なのだけど。


07月30日(土) 卒論  Status Weather晴れ

 「精神病院は所詮ラーゲリだよ。誇りと羞恥心は,そこじゃあ許されていない」
   矢作俊彦『真夜中へもう一歩』(p.336,角川文庫)
 
 卒論を何章で構成したかは覚えていないが,各章の冒頭に,いろいろな本からの引用を置いた。これ以外には,カート・ヴォネガット Jr.の『プレイヤー・ピアノ』だとか,ドナルド・バーセルミの『戻っておいで,カリガリ博士』(たぶん,改訳版『帰れ…』は出ていなかったと思う)などから,適当に放り込んだ。
 本論はまったく子どもだましだったけれど,引用した箇所は,意外と旨く嵌った。


07月31日(日) Another Game  Status Weather晴れ

 “Another Game”を更新しました。先は長い。



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