2人ではじめた社会人バンドに学生時代の友人が加わり3人になった。ベースはいなかったものの,ウインド・シンセでメロディを吹きながら,ベースラインをフォローする和之の能力に助けられ,曲もできあがってきた。
3回目のスタジオ入りのときだったろうか。浮かない顔だった。
「結婚するんだ」
しばらくの沈黙。
「聞かなかったことにしてやろう」
昌己が言った。
振り出しにもどってからが長かった。
2人では,TGの“HEATHEN EARTH”みたいな曲になってしまう。オール・イン・ワン・シンセの導入は当然のなりゆきだった。シーケンサに併せての演奏。カチっと決まるはずが,今度はホルガー・ヒラーかはたまたスキニー・パピーのような音になってしまう。
数年間,都内のスタジオをわたり歩いた。
そのスタジオがどこにあったのか覚えていない。
結婚して子どももいた友人を巧みに誘ってスタジオ入りしたときのことだ。ホールで缶ジュース片手に乱雑に張り散らかされたチラシを眺めていた。
「死ね死ね団のライブ告知だぞ。まだ,やってたんだ」
「そういえば,“中卒”ってメンバーいたよな」
「いた,いた」
スタジオを出て清算をしていたときのこと。
昌己が「死ね死ね団って,やってるんですね」
何気なくスタッフに声をかけた。
「メンバーに中卒っていませんでしたか?」
「僕が中卒です」まさか……。
そのスタジオを営んでいたのが,“中卒”さんの親戚(だったと思う)だそうだ。
しばらく後,予約を取るために連絡すると,店を畳んだということだった。