劣等感と優越感の微妙な混在――結局は劣等感コンプレックスといってよいと思うが――,それを基にして,もうひとつの奇妙なコンプレックスが派生する。先にあげた自殺未遂の人のように,このような人は,他人を『救いたがる』傾向が強いのである。ともかく,『有難迷惑』ということが,ぴったりとする行為の専門家である。一寸でも困っていると,不必要に助けにきたり,同情したりしてくれる。困っていないときは,何か悩みがないか探しだしたり,時には作り出したりしかねまじい程の親切さである。このようなコンプレックスは,メサイヤ・コンプレックスとよばれている。確かに,他人を救うことは善いことであることだけに,これは非難されることが少ないので,これを克服することは難しいことである。
著者 | 河合隼雄 |
タイトル | コンプレックス |
ページ | 61ページ |
出版社 | 岩波新書 |
発行年 | 1971年 |