戦争について

勝てる戦争をするには,机上で書類として片づけなければならない条件が無数にある。戦争の八割は実はそこにある,と言っても過言ではあるまい。極端な話,戦争とは,机上の計画に沿って軍を移動させ,駐留させることであって,個々の戦闘はその際に生じる摩擦にすぎない,ということだってできるのだ。気の毒な召集兵は移動の間にどんどんすり減り,気の毒な下級指揮官には精神主義以外頼るものがない,というのは現場の現実ではあろう。上ではそれは歩留まりの問題として計算される。時々,右翼ポピュリストは,日清戦争だって日露戦争だって勝つか負けるか判らなかった,だから太平洋戦争だって,やってみなければ判らなかったのだ,などと言うが,摩擦の度合いも歩留まりも費用対効果も計算せずに計画されたとしたら,その戦争は,最初から負けているのである。

著者佐藤亜紀
タイトルでも私は幽霊が怖い→陽気な黙示録
ページ245-246ページ→63ページ
出版社四谷ラウンド→ちくま文庫
発行年1999年→2010年
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