夏休みがはじまって,友人たちとはしばらく会っていなかった。9月の中野サンプラザ,コクトー・ツインズのライブを集合場所に怠惰な日々を過ごしていた。
もちろんライブの日まで連絡はしなかった。1か月程度のことだ。だが,魔の手はどこに潜んでいるか判らない。
その日,中野・RAREで待ち合わせた友人3人のうち2人のようすが妙な具合だ。カラ元気というかのか,テンションは高いのだが,そうしていないと沈んでしまいそうな不安定さが見え隠れしている。
「何だよ。気持悪いな」
「ハハハ,信じるものは救われるってさ」
「変な商売に手を出したんじゃないだろうな」
「ギクッ」
「何がギクッだよ」
「鋭いな」
「言えよ。黙っておくからさ」
「そのうちな。ほら,開場したぜ」
その日,サンプラザ前で,このような会話が交わされてことを,よもやコクトー・ツインズの3名は知るよしもなかったろう。
ライブは心地よく,芸のない表現だが「天にも登る心地よさ」だったと,ここではしておかねばなるまい。
ライブ終了後,地下鉄のなかでも,ライブのことはさておき,話は怪しげな商売のことに終始した。
その日,奴らは最後まで口には出さなかったが,人工ダイヤのネズミ講に絡めとられてしまったのだった。それから半年,われわれは友人のひとりがとうとう,そのネズミ講を廃業に追い込むまで,難儀な荷物を背負わされてしまった。一攫千金を狙う目は,もはや正気の沙汰ではなかったのだ。
その後,コクトー・ツインズは「天国もしくはラスベガス」というタイトルのアルバムを発表する。それこそ,あの日われわれ残り2人の心境そのものだった。
(強引なオチだ。やれやれ)