何か読もうと思い,書棚を眺めたところ,柴田哲孝の『完全版 下山事件 最後の証言』(祥伝社文庫)が目にとまる。ふと,島田一男が銀座三越の地下3階に新聞社を構えていた時期に下山事件と交差する物語ができないだろうかと思い,読み返すことにした。
松本清張経由で下山事件を知り,だいたいイメージするのは杉作J太郎の漫画に登場するあたりのところだ。矢田喜美雄の本を読み,覚えていないけれど他にも読んだ本はあったはずだ。
21世紀に入ってから森達也が突然,下山事件に関する本を出した。続けて週刊朝日の記者の本も出た。なんだか中途半端で刊行までに紆余曲折があったことは理解できた。そのあと,柴田哲孝の本が出て,たぶん単行本で読んだ気がする。文庫本が出て買って読んだのは面白かったからだと思う。ただ,森や朝日の記者の本に登場する「彼」と本人が書く「わたし」はかなりキャラクターが変わって読める。この三冊を続けて読むとした場合,一番面白いのは「彼」「わたし」のキャラクターの違いではないだろうか。本人が書くとやたらとハードボイルド風の語りになるのだけれど,他の二人が書いた「彼」はやや気弱なたたずまいだ。それが面白い。